人民元、資本勘定の開放が加速化 HSBC アジア通貨セミナー 

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米緩和縮小でインド、インドネシアに試練

グローバル・マーケッツ調査部マネージング・ダイレクター兼アジア通貨リサーチ統括
ポール・マッケル氏

ポール・マッケル氏

ポール・マッケル氏

FRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和ペースを緩める可能性を示唆したことで、とりわけ新興国経済がグラついている。マネー流出を懸念する声も聞かれる中、HSBCは7月17日、アジア通貨セミナーを開催。香港常駐のグローバル・マーケッツ調査部マネージング・ダイレクター兼アジア通貨リサーチ統括のポール・マッケル氏が今後のアジア為替相場の見通しを語った。

米国の緩和策縮小、年内にも実行か

ユーロ圏解体、米国の財政の崖問題、中国経済のハードランニング懸念など、昨年はさまざまなテールリスクが存在。これがアジア通貨にマイナスの影響を与えていた。こうした要因は徐々に安定化へと向いたものの、足元ではFRBの量的緩和策縮小という新たなリスクが台頭してきた。

そして私たちは度重なる危機の結果、失望を誘う「悪い数値」にも慣れてしまっている。

図1 GDP成長率、インフレ・サプライズは共に下降

図1 GDP成長率、インフレ・サプライズは共に下降

G7の各種経済指標と市場予想との食い違いを表す「サプライズ指数」はここ数年、GDP(国内総生産)成長率、インフレともに軟調(図1)。にもかかわらず、米国は6月に緩和策縮小の可能性を示唆。つまり、今後も各種指標の軟調状態が続いたとしても、米国は予定通り量的緩和策縮小に踏み切るとみられ、それは12月ごろ緩やかに始まるとみる。

アジア通貨、好転を告げる2つのサイン

サイン(1) サプライズ発生→センチメントの急変

G7同様、アジア諸国のサプライズ指数も下降トレンドを形成中。こうして世界経済については「改善している」との印象を持つどころか、「想定よりも悪い」といった懸念が募る。

しかしながら、こうした状況は裏を返せば「アジア通貨の動向をチェックする絶好の機会」とも。この先サプライズの兆候が現れた際には、センチメントが一気に好転する可能性が。とはいえ今後数四半期は期待できず、タイミングを待ちたい。

図2 米ドルと国債利回りの相関性に変化

図2 米ドルと国債利回りの相関性に変化

サイン(2) 米国国債のボラティリティ低下

足元ではドルの動きが変化している。昨年の今ごろはドル高・国債利回り低下という相関性が見られたが、現在はドル、国債利回りともに上昇(図2)。結果、今年5月より国債のオプション市場でのボラティリティが急速に拡大している。これが緩和されればアジア通貨に安心感を与えることができるだろう。

日銀緩和、アジア通貨へのインパクト

日銀は4月「異次元の金融緩和」を発表。しかし、足元では、世界は日銀よりもFRBの動きに注目しており、大きな影響は生じていないようだ。ポートフォリオのフローを見ると、日銀はむしろ北米や欧州、オーストラリアへの投資を拡大させている(図3)。

図3 日銀の金融緩和とポートフォリオフロー

図3 日銀の金融緩和とポートフォリオフロー

一方、日本は長年アジア向けFDI(対外直接投資)を続けており、この動きは今後、加速するとみる。しかしながらこれは長期的な視点であり、為替に即座に織り込まれるものではない。

日本経済が本格的に改善した場合、日系企業が東南アジアに子会社を作ってグローバルのサプライチェーンを再構築、これに伴って東南アジア諸国の輸出が改善して、為替も強くなることが期待される。

ちなみに日本と多くのアジア諸国は産業で必ずしも競合しない。輸出品目の重複状況を見ると、韓国は50%で、タイ、マレーシアが35%ほどとなっているが、タイ、マレーシアなど東南アジアの場合、例えば日系自動車メーカーが子会社を置くケースが多い。

アジア国別の状況

一口にアジア通貨といっても状況は二極化している。アジア各国の中央銀行は通貨高を望まず防衛的だが、韓国、台湾、シンガポールなどの経常黒字国が困難な局面でも良い結果を出しているのに対して、経常赤字を抱えるインドネシア、インドは苦戦が続く。

シンガポール・ドル

非常に流動性が高く、故に、外的要因の影響を真っ先に受けるボラティリティの高い通貨でもある。足元では通貨高が一服したところ。経常黒字国である上に、日本からのFDIも全体の10%超と巨額で、長期的な資本も堅牢(けんろう)。為替レートは底堅く推移している。

インドネシア・ルピア

経常赤字にあることと、流動性の低さが大きなリスク。足元では中央銀行による利上げ、あるいは、政府が補助金をとりやめて燃料価格を引き上げるなど、マクロ経済的には正しい道に進んではいるが、なにしろ遅過ぎた。世界はFRBの金融緩和策縮小のタイミングに焦点を当てており、もしも実行されればストレスから為替のレンジが拡大、つまりはボラティリティがさらに高まることが予想される。

債券市場における外国人投資家の保有比率はリーマン・ショック時に14%ほどに落ち込んだものの、ここ数年は30%ほどで安定。これが突然流出するといった心配は低そうだ。しかし、資産は相変わらずインフレや通貨安の懸念にさらされており、これらに対応すべく彼らはドルを買ってヘッジをかけるのだが、これが結局、通貨安のプレッシャーに。

インド・ルピー

こちらも経常赤字を抱え、インドネシアと似たようなストーリーを歩んでいる。政府があらゆる改革を行っているにもかかわらず、国内輸出入業者は一貫してドルを買い増ししている。成功を信じていないような彼らの行動は海外投資家の懸念材料であり、資金の引き揚げを後押ししている。

中国・人民元

高利回りかつボラティリティの低さ故、投機性の高い取引が続くが、当局は人民元の現状に懸念を示している。長期的には資本勘定を開放して外国人投資家のアクセスを高める方向を目指すと思われる。

われわれは中国で今後数カ月の間に何かしらの改革が行われるとみる。当局は常にマーケットに対してサプライズを提供したいと考えており、この先FRB緩和策縮小で資金流入のプレッシャーが緩やかになったときこそが、改革を行う絶好のタイミングだと考える。経常黒字が縮小して、輸出企業の手持ちドルの残高が低水準にあるためだ。そして、われわれは向こう5年間のうちに人民元の完全兌換性が実現するとみる。通貨の兌換性についてIMF(国際通貨基金)は40の基準を設けており、現在、中国は36をクリアしている。

しかしながら、変化の初動は実に緩やかなものを予想する。中国では過去10年間さまざまな改革が行われたが、いずれも終了したときに初めて「かなり大きな改革をやったのだ」と気付かされた。当局が自信をつけた段階で改革を拡大するといった動きが今後も予想される。

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