「フィデリティ・日本変革ファンド」運用開始から1年、運用担当者が語る中小型株市場における銘柄選択の視点

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松井亮介氏

松井亮介氏

フィデリティ投信 運用部ポートフォリオ・マネージャー
松井亮介氏

急激に進んだ円安を受けて、9月の日本株市場では主力大型株がにぎわった。一方、10月1日発表の日銀短観では非製造業や中小企業の景況感悪化が確認されるなど、日本経済の動向に対する懸念も噴出している。

依然として日本株市場の先行きが見通せない中、「下値対比の上値」との観点から銘柄選択を行うファンド、「フィデリティ・日本変革ファンド」に目を向けてみたい。同ファンドは2014年9月、フィデリティ投信が5年ぶりに新規設定した日本株ファンドとして話題を集めた。同社は運用開始から約1年が経過した今年9月29日に記者向け説明会を開催。運用担当者の松井亮介氏が語った運用哲学を紹介する。

Boring Beautiful!
~単純過ぎて退屈、だけどそれが「美しい」!~

「変化のない銘柄」を選好

1412836153株式投資は「美人投票」だといわれる。新商品発表や業績の急激な変化といったサプライズを提供して投資家をエキサイティングさせる“目立ちたがり”企業の人気が高い。新型iPhoneが発売されると市場関係者はこれを分解して部品を取り出し、原価を計算したりして、関連企業の業績に思いをはせる。

一方、私が運用を担当する「フィデリティ・日本変革ファンド(以下、ファンド)」の投資先は実に退屈だ。事業内容は今年も来年も同じことの繰り返しで変化がなく、先が見通せてしまう。画期的な商品が登場することもない。IR(投資家向け広報)に積極的ではなく、目立つことを嫌う企業が少なくない。当然ながら投資家の興味を引かず、バリエーションも切り上がらない。

ただし、ファンド組み入れ銘柄は総じて「下値が限定的」だ。例えば先述した電子部品の場合、アナリストが算出した単価の前提がいったん崩れると株価が大きく下落してしまうが、組み入れ銘柄は「同じことの繰り返し」なので突発的リスクが存在しない。

選択基準は「価格決定力」

“目立ちたがり”企業が繰り出すキャッチーなニュースに惑わされることなく、ファンドの銘柄選択ではまず、プライシング・システムが確立されているかどうかを重視している。具体的には、

(1)価格競争に巻き込まれにくい売値決定方式が採用されているか
(2)不毛な消耗戦に陥る懸念が小さく、数量効果を享受できるか
(3)差別化された技術力やブランドを保有しているかどうか

――といった点を吟味しながら企業を選ぶ。

例えば8月末時点の組み入れ上位に入っている、筆記具大手のパイロットコーポレーション(7846)。06年に販売開始した、摩擦熱で筆跡を消去できる「フリクション」シリーズで知られ、世界累計での販売本数が今年10億本を突破した。日本では250円で販売するペンを、欧州に輸出して約500円で販売。円高の際には現地通貨ベースで値上げを行い、その後は円安にフレたものの値下げは行わないなど、強気の販売姿勢を貫く。あるいは小型建機メーカーの竹内製作所(6432・JQ)。欧米では「建機のベンツ」と称されるほどのブランド力を持ち、こちらも円高の際に現地で値上げを行っている。

独自リサーチで「見落とし」発掘

そのほかの注目点として「ビジネスモデルや収益構造が市場で理解されていない」「企業に起きている変化が株価には織り込まれていない」「ディスクローズの姿勢や株式流動性を理由に投資家から敬遠されている」などの理由から市場で見落とされている、割安で投資価値の高い銘柄であることも重要だ。該当企業の中には外部に頼らずとも十分収益を上げているなどの理由からIRの必要性を感じていないケースも。この場合、投資家がいったん企業側と意思疎通を図ることができれば、確信を持って投資できるという魅力を備える。組み入れ銘柄の中には申し込みから1年がかりで面談の実現にこぎ着けたケースも。

「分かるところ」で勝負する

企業の今後の方向性を占う際に注目しているのが「米国失業率」だ。ファンド組み入れ上位10銘柄のうち5銘柄が米国経済回復の恩恵を大きく受けるとみており、過去のデータを分析すると、これら企業の四半期別売上高と米国失業率の間に高い相関が確認された。組み入れ銘柄は「同じことの繰り返し」ゆえ、データの信ぴょう性も高い。

世の中のあらゆるものが常に変化し、予期せぬ出来事が頻繁に起こる中で、まずは米国失業率の上下のみを予測することで今後の方向性を確認。加えて米国失業率は組み入れ銘柄の時価総額とも相関があり、例えば、失業率が上昇すると予測したにもかかわらず時価総額が過去の下限に到達した際には好機到来と判断して、投資を開始するといった使い方もできる。

銘柄選定基準は「価格決定力」が重要だと先述した。そんなファンド組み入れ銘柄の成長性をみる際には製品生産量を予測することも重要であり、ここでも米国失業率の動向予測が役立つ。

米国の成長は続く 製造国として復活

シェールガスの台頭により米国ではエネルギーコストが下落しており、今後もこの傾向は続くだろう。既に十分整備されたインフラや豊富な労働力を武器に、これまで中国や東南アジアに向かった製造業も米国への回帰を始めている。中国における原油価格は“世界の工場”化が始まった00年初頭の10-20ドルから、現在は100ドル程度にまで上昇。人件費も高騰するなど前提条件が様変わりしたため、米国企業が製造拠点を国外に求める理由はもう存在しない。

昨年はドイツから700億ドルものFDI(対外直接投資)を呼び込むなど、外国からの投資やM&A(企業合併・買収)も増加。加えて、金融緩和によって欧州に蓄積した巨大資金がこの先、金利上昇に転じる見込みの米国へと流入することが予想される。

「フィデリティ・日本変革ファンド」概要
13年9月26日新規設定。国内市場に上場する中小型株が主要な投資対象。市場平均などと比較して成長力があり、その持続が長期的に可能と判断される企業を選定する。8月末時点の組み入れ上位10銘柄は上からラウンドワン(4680)パイロットコーポレーション(7846)大和工業(5444)ニューフレアテクノロジー(6256・JQ)竹内製作所(6432・JQ)三菱自動車(7211)シークス(7613)図研(6947)三菱鉛筆(7976)サカイ引越センター(9039)。これら10銘柄でポートフォリオ全体の50.6%を占める。
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