都心の優良不動産から地方都市の優良不動産などへ 国内不動産マーケットの回顧と展望 ラサール不動産投資顧問

概 況


コア資金の投資対象拡大を予想

ラサール・インベストメント・マネージメントの日本法人、ラサール不動産投資顧問は、このほど記者向けセミナーを開催した。ここではセミナーで語られたポイントを紹介したい。ラサール・インベストメント・マネージメントは世界26拠点に700人のスタッフを抱える世界有数の不動産投資顧問会社。公的年金、企業年金基金、生命保険、政府、基金などの機関投資家や富裕層から資金を預かり、私募・公募合わせて約463億㌦(2013年3月末現在)の運用資産残高を誇る。

高野靖央氏

高野靖央氏

日本の不動産マーケットと投資事業戦略

高野靖央 投資戦略・リサーチ部 アソシエート・ディレクター

■「3つの不均衡」が混在

「不動産のリスクとリターンは、政府の施策と海外資本市場の動向によって変わる。日本の不動産市場では、量的金融緩和の継続、構造変革への期待と不透明感などにより、①ファンダメンタルズが全般的に改善する一方、不動産市場の中でも資金が配分されているセクターとそうでないセクターに分かれる②一部投資家が楽観的姿勢を取る一方、値動きは通常の景気回復局面ではあまり見られないようなボラタイルな動きを見せる③短期的経済回復を見通しやすい一方、中長期的では経済不確実性が残る――といった『3つの不均衡』が混在。これにより不動産を巡り、『資本のゆがみ』が生じている」

■2013年の投資戦略

「量的金融緩和は不動産が生み出すインカムへの需要を増大させ、今年の不動産取引量は昨年の2倍程度に高まったが、『3つの不均衡』を背景に、安定した運用を求める“コア資金”の行き先に偏り生じている。エリア別では、東京都心、大阪、福岡にとどまり、地方に資金が十分流れていない。セクター別では、東京圏・大阪圏の郊外商業施設もファンダメンタルズは底を打ったものの資金はまだ回ってきていないなど、価格回復ペースは立地やセクターによって異なっている」

「こうした中、当社はコア資金が流入した都心の優良不動産を売却。一方、コア資金が将来流入するであろう不動産(地方都市の優良不動産、テナント付けにより稼働率向上が見込める不動産、物流施設など)を取得した」

■2014年の投資戦略

「“日銀マネー”は、銀行を通じてJ-REIT(不動産投信)や私募ファンドに回り、それらを通じて実物不動産市場に回ってきている。『債券利回りと不動産利回りの格差』が不動産への資金シフトを生んでおり、この利回り格差はまだ十分開いているため、利回りを求める銀行マネーが不動産に流れる環境が続こう。中で、経済見通しの変動性や金利上昇リスクも勘案し、より高い利回りや安定した収益を生む不動産への需要がさらに増加すると予想している」

「2014年はコア資金の投資対象が広がるとみており、当社がこれまで投資してきた不動産の売却がさらに進む年になろう。また、今後2、3年でコア資金が回ってくると予想される主要都市の住宅・物流施設・郊外商業施設の取得、安定インカムを求めるコア資金が集中する都心不動産を低稼働で取得してテナント付けするバリュー・アド投資、物流施設の安定運用と新規開発に重点を置く。今はまだ低金利だが、市場の変動性や金利上昇リスクを考慮し、適切なレバレッジでコントロールしていく」

奥村邦彦氏

奥村邦彦氏

物件取得担当の目から見た不動産市場動向

奥村邦彦・執行役員(アクイジション担当)

■2013年を振り返って――投資家のニーズ多様化

「不動産投資資金の出し手は、これまで一任勘定が主流だったが、今年は投資家のニーズ・嗜好(しこう)・リスク許容度の細分化を感じる年だった。投資家から『ローリスク・ローリターンの安定型投資では期待する利回りが得られない。かといって、ハイリスク・ハイリターン型投資ほどのリスクは取りたくない。ミドルリスク・ミドルリターン型に投資したい』『郊外、地方都市の大型商業施設に限定してポートフォリオを組みたい』といった声が聞かれ、投資家のニーズに合わせた、きめ細やかなファンド作りが求められるようになったと感じている」

■2013年を振り返って――都心オフィスでは賃料上昇を織り込む動きも

「物件取得担当として、今年をひと言で表すと『非常に厳しい年』。最も物件取得競争が激しかったのが、都心のコア物件で、ここにはJ-REIT、私募ファンド、事業会社、個人の富裕層などの多様な資金が参入してきた。数百億円規模の大型案件も頻繁に取引されるようになったほか、超大型物件、地方物件、築古物件など流動性に“難”があるため塩漬け状態にあった案件が動き始めたことも今年の特徴。また、物件価格の算定にあたり、賃料の成長を織り込む動きも徐々に出てきている。特に東京都心のオフィスは、『Aクラス』の大型物件のみならず、『Bクラス』物件も賃料上昇を織り込む動きを見せている。もちろん、リーマン・ショック前の2007年のような過剰な賃料成長の想定はなく、立地、物件を慎重に選別した上でのことだが、物件によっては賃料アップを織り込まないと価格競争力がない場合も多かった。こうした中、当社は安定運用型から機会追求型まで、さまざまな資金ソースを使い投資を行った」

■2014年に向けて

「安定運用型案件の獲得競争は引き続き厳しいだろう。一方、リスクをとって投資できる人には面白いマーケットになってきていると感じている。来年は、例えばこれまで都心3区に限定していた投資家が都心5区に、これまで東京限定に限定していた投資家が大阪、名古屋へと、“守備範囲”を広げるが出てこよう」

「こうした中、賃料の底打ち感があるBクラスのオフィス、地方物件、流動性の戻りが遅れて比較的に高利回りが期待できる郊外商業施設なども含めて、案件を慎重に選別した上で積極的に投資していく考えだ。また、これまで行ってきた安定運用型、機会追求型投資に加え、ミドルリスク・ミドルリターンのバリュー・アド投資についても積極的に進めていく」

下浦明子氏

下浦明子氏

アセットマネジメント担当の目から見た不動産市場動向

下浦明子・執行役員(アセットマネジメント担当)

■2013年の総括・2014年に向けて

「今年はオフィスと住居案件合計10棟を売却し、当初計画を大幅に上回るリターンを実現した。 『一歩先行く投資』として、“一癖”ある物件をバリューアップし、コア投資家向けの安定収益物件に変える取り組みも奏功している。このような案件を、中堅のJ-REITや私募ファンド、事業会社などが積極的に購入している。特に、資金調達環境が改善した中規模以下のJ-REITによる購入が目立った」

「来年は都市やセクターごとに、今後の価格上昇・ピーク時期を分析し、売却時期を見極めることが肝要と考えている。売却時期から逆算した売り物づくりや、ターゲットとなる買い手が購入しやすい物件に仕立てる取り組みも継続していく」

中嶋康雄氏

中嶋康雄氏

物流施設の投資成果と戦略

中嶋康雄・代表取締役兼CEO

■2013年の総括・2014年に向けて

「今年は、物流施設を投資対象にした4つのJ-REITが上場するなど、物流施設が主要資産クラスに認知された元年。床の需給は引き続きタイトとなっている。短期的な供給過剰も懸念されているが、潜在的需要は大きく中長期的には問題ないとみている。当社の倉庫ポートフォリオでは、今年だけで8万坪が竣工・6万3,000坪が着工となったほか、築古倉庫のリノベーションや4万5,000坪の賃貸借契約を結んだ。物流施設は投資家にとって安定した収益が見込める優れたセクターであり、新年も積極的に取り組んでいく」

まとめ

「今年の初めに、『“一歩先をゆく投資”をキーワードに、今後2、3年において当社全体で3,000億円の投資を行う』とお話したが、今年は1,000億円を超える新規投資と、1,000億円超の売却を実行した。オフィス・商業・物流とさまざまなセクターで取引ができた。当社は、投資家の嗜好の多様化や、さまざまな投資機会に対応できるよう、『10億円から1,000億円の物件まであらゆる不動産セクターに対応できる体制』づくりに2、3年前から取り組んでおり、それが今年開花した。これまでは外国資金を国内に投資をするのがメーンだったが、今年は国内の投資家も増えてきた。新年もわれわれの知見をどんどん提供していきたい」

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