ドル円相場の現状と展望 来年3月末では105円、長期は110円程度も 三井住友銀行 宇野大介氏に聞く

概 況


実体経済と市場に人為性、過去の延長上では通用せず

三井住友銀行 市場営業推進部 チーフストラテジスト 宇野大介氏に聞く

宇野大介氏

宇野大介氏

年の瀬が迫ってきて、外国為替市場では円安が再燃しつつあったが、ドル円は5月22日に付けた年初来高値の103円74銭を手前に足踏みしている。引き続き、市場の円の先安観測は根強いようだが、どう見ればよいのか。三井住友銀行市場営業推進部チーフストラテジストの宇野大介氏に今後のドル円相場を考える上でのポイントは何か、今年1年を振り返っていただいて、今後のドル円の相場展開や、金利動向、最近のマーケット対する感想などについて聞いた。

■アベノミクス以降の展開

アベノミクス以降の展開を踏まえて、来年3月ごろまでの相場を展望してみたい。そこでまずこれまでの推移を振り返ってみると、当初は、当時の安倍自民党総裁が異次元緩和を口にしたところから相場が始まって、日本発の材料で円安・株高の組み合わせの相場形成がされてきたと思う。実際、4月に安倍総理の下で黒田日銀総裁による異次元緩和の決定をもってして、その動きに拍車を掛けた。5月22日にドル円は103円74銭でピークを付け、日経平均は23日に1万6000円手前でザラ場高値を記録した。6月上旬にアベノミクスの「第3の矢」の具体化が発表されるとの話が伝わってきたが、具体的なものが出てこなかったことや、事前に5月上旬の相場の大幅調整もあって、その後、10月まではあまり方向感が出ないままで、ドル円も株も高値圏でのもみ合いというレンジ相場に入った。11月に入って、米10月雇用統計は、米政府のシャットダウンの影響を受けて弱い数字が出ると見込まれていたが、フタを開けてみれば予想に反して強い内容だった。その後に発表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録で早晩QE(量的緩和)の縮小を始めるといったトーンで、マーケット参加者はそこに焦点を当て、読解した。11月以降は、日本発ではなく、こうした他律的な米サイドのファンダメンタルズが改善していることを受けてのドル買いや、QE縮小からくるドル買いで、結果として円安・株高の第2幕が切って落とされたと一般的には言われている。直近の米11月雇用統計も強く、同じようにテーパリング(金融緩和縮小)開始時期が12月の17、18日のFOMCなのか、年明け3月ぐらいまでなのか、そこは大して変わらないが、クロス円の円安も伴い、さらに円安・株高の動きに拍車を掛けた格好である。

■今後の展開

ドル円の先行きを考えるときは、それが持続するかどうかだ。6月から10月の間に9月のFOMCでテーパリング開始ということがいったん梯子(はしご)を外された経緯があり、それが故にそれまでのレンジ相場を逸脱した。11月にテーパリングが早い時期に始まるのではないかとの思惑は強いものとなり、これを材料として“ひと相場”が形成された。ということは、ここからさらに米のファンダメンタルズが強まったところで、もしくはテーパリングの持続性をもってドル買いといっても、それらはドル買い材料としてはせいぜい知れているものになると考える。米国発の他律的な部分でのドル高の結果としての円安・株高は持続性がないのではないかと考えている。日本サイドということでは、追加緩和に前向きな日銀サイドからの発言もあるが、実際、消費税引き上げ後の反動減ということに関しては5.5兆円規模の政府の経済対策が既に用意されている。したがって、来年4月までの間に追加緩和が現実味をもって迎えられるとは考えにくい。この間、今年の6月から10月に見られたような小休止の時間帯、エアポケットに再び陥る可能性が高いと踏む。さらに来年通年でのドル円については以下で詳細を述べるが、先進国の実体経済、マーケットは極めて人為性を帯びており、これまでの延長線上で相場感、水準感を示すことに価値はないと考えている。従って上値余地はそこそこ広めに取って110円程度までを想定しておきたい。来年3月までというタームで区切って考えるならば、まずは105円までが良いところではないか。

■マーケットの変質

一般的には、本来マーケットは、人為的な力とは関係ないところでの値段形成されるものである。例えば口先でも実弾でも介入が行われたとしても、マーケット本来の自浄作用で適正値に戻されてしまうというのが常であった。それがリーマン・ショック以降で言うと、リーマン・ショックはなぜ起きたを考えると、もともと値段を決める手段、ツールであったマーケットが金儲けの場という形で目的化されてしまい、結果、それこそ金融バブルが弾けたという流れがあった。その過程でマーケットの位置付けや役割自体が変わってしまったと思われる。バブルが崩壊した後の処方せんとして米国、英国は量的緩和策を実施し、欧州はいざとなれば信用・量的緩和を実施すると唄い、結果、カネ余りで問題を解決しようとした。その一部は新興国に流れて、一部は先進国の株式相場、商品相場に流れたことで、前者は実力とは関係なく高成長を遂げる新興国を造り出し、後者は経済の回復を伴わずとも金融事象としての株高を造成した。その意味で、株式相場はファンダメンタルズを反映したものではなく、極端に言えばマネーサプライの指標になり代わったものと言い換えることができよう。こうしたことを考えると、経済の変動を小さく抑えるための人為的な働きかけは、ずっと以前から財政政策や金融政策でやってきたが、リーマン・ショック後の対応策は比較にならないぐらいの影響を与え、経済もマーケットも双方、変質させてしまったと言えるのかもしれない。その意味で、リーマン・ショック以降は、株式相場について高いに越したことはないという意味合いで人為的にコントロールされ、マニピュレート(操縦)という意味ではなく、それなりのロジックも成立するのだが、因果関係という意味では、経済が良いから株高ではなく、株高だから経済は良くなるはずだ、という逆の因果関係を構築することに成功したように映る。リーマン・ショック前はマーケットの常識として、金利が上がることと、株が上がることは並列しているはずだったのだが、今や両方が買われていることが常態であるかのような認識を持たないといけなくなっていくのかもしれない。過去の経験則なり公式、常識が通用しなくなっているとの印象だ。そういう意味でも、今年のマーケットは、今まで違うことを特に強く感じた1年だった。繰り返すが、先進国の実体経済、マーケットは人為性を帯びており、これまでの延長線上で今後の水準感を示すことは、予想対象が変質している以上、無意味になるのではないかと考えている。それに見合った考え方、予想というものがあって然るべきであろう。

■金利動向

ユーロエリアはディスインフレの傾向が見て取れる。米国も同様だ。これは日本が先んじて経験したことと同じ動きと考えるならば、今後は欧米でディスインフレが進み、金利が上がりにくくなっていくものと予想する。余談だが、デフレ下の通貨は買われるという構図があり、まずはディスインフレ傾向が顕著なユーロから買われ始める、という理屈を付ければ、足元のユーロ/円の上昇も説明が付くようにも思える。一方、国内の債券市場では、もともと、需給構造がしっかりしている。それに加えて、日銀が新発債の7割を買うという新たなプラスの要因もあり、こうした状況では金利が上がったとしても知れている。今後、1年で見た場合のコアレンジ帯は、10年国債利回りで0.5―0.8%と予想している。米国債については、まずはQE縮小を反映し、こちらは日本とは逆に買い手が買い続けることから手を引く政策指向のため、まずは金利は売られていくことになろう。もちろん、今年9月にかけての織り込みのように、QE縮小は早晩QE停止となり、政策金利の引き上げなどといった極端な織り込みはしないと頭では考えるが、ボルカー・ルールの適用は遠くて近い2015年7月から、などといったことを考えると、ポジションを軽くするタイミングという解釈が成されることで、10年金利が3.5%近辺まで売り込まれるなどという事態については想起しておくべきなのではないかと考える。

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