プラス・マイナス、バランスを考慮に 「不確かな時代における投資」(下)

概 況


オークツリー・キャピタル・マネジメントL.P. ハワード・マークス会長、大いに語る

ハワード・マークス会長

ハワード・マークス会長

米国の大手投資会社オークツリー キャピタル マネジメントL.P.(以下、オークツリー)のハワード・マークス会長が「不確かな時代における投資」とのタイトルで語った後半を紹介する。その前半では、同会長が投資家としての45年間に及ぶ経験の中で学んだ、自身の投資哲学メモをまとめた著書「投資で一番大切な20の教え」をもとに、その中でも現状に照らして、最も重要だと思う教訓について話した。後半は、金融危機前から現在までの様相が一変した投資マインドの変遷を明らかにするとともに現状を分析、「不確かな時代における投資」に向けての同会長なりの処方せんを提示する。同会長の見解にじっくりと耳を傾けたい。

■世界的な金融危機の前の確信

私のように経験を積んだ投資家の目から見ると、この7年間何かが変わったか、最も興味深い変化は何かといえば不確実性にかかわる部分だと思っている。6、7年前、危機の前には不確実性は存在しなかった。みんな確信に満ち満ちていた。みんなが世の中はこのように機能しているんだ、このように回っているんだと確信を持っていた。5、10年先、世の中はきっとこう変わっているんだと思っていたし、何か問題が発生してもそれはこうやって解決すればいいんだ、解決策はこうだと確信を持っていたと思う。

■過去の確信に揺れ動く人々の心

ところが、わずか6、7年で様変わりをした。今や確信を持っている人はほとんどいないし、かつて思ったような形で世の中は回っていないとみんなが気づき始めた。かつ自分の意見に確信を持てる人はほとんどいなくなった。実際、現在、不確実だと思われる項目はたくさんある。例えば、米国経済の回復のペース、政治的な問題を解決する能力が米国はどこまであるのか。欧州の将来の成長率はどうなるのか。また、日本もどうなるのか。中国の金融引き締めが行われることにより果たしてソフトランディングは可能なのか、ハードランディングにはならないのか。中国ならびに先進国の経済成長率が鈍化するのか、新興国市場に対する影響はどうなるのか。低金利や金融緩和によりこの先本当に経済成長を促していけるのか。ハイパーインフレという状況にならないのか。この先、先進国の財政赤字や債務はどのような結末を迎えるのか。それ以外にも世界全体にまたがるようなより大きな課題もある。出生率の低下や、食料と水の確保、所得格差の増大、世界各地で不穏や不安が発生していることなど。

■何が市場を駆り立てているのか

従って、私から見ると世の中は間違いなく、かつて以上に不確実性が高まっている、不確かになっている。人々もこの現実を認識しつつある。にもかかわらず、多くの市場は上昇基調を続けている。なぜか。私なりの答えは以下の通りだ。

世界各国の中銀が世界経済を刺激するために、大きく金融緩和を行っている。その結果、資金が大幅に流入している。この資金はどこかに行かなければならない。国債利回りが非常に低下してしまった結果、人々は必要なリターンを確保するためによりリスキーな資産に注目せざるを得ない。近年、リスキーな投資に対するリターンは良好で、デフォルトも抑えられており、これによって心理が好転している。多くの人々は極端に強気相場だとは思っていないのかもしれないが、かなり強気の行動に出ていると思う。もちろん、大きなリターンを確保しようとすれば、リスクの多い投資に手を出さざるを得ない。なぜなら安心な投資ではリターンが低過ぎるからだ。

■方向性の選択

従って、この先どうするかを選択しなければいけない。アグレッシブに投資を進めるのか防衛的に守っていくのか。前進するのか、あるいは慎重に行くのか。前進すべきと考える材料もいくつかある。先進国の経済は回復しつつあるし、心理は落ち着いている。安全資産だけでリターンを追求しようとしてもリターンが低くなり過ぎていることで、リスクを取らないわけにもいかない。他方で、慎重であるべき材料もあるわけだ。不確実性は高まっているし、経済回復はしているとはいても停滞していて、それほど急速に回復しているわけではない。ネガティブと考えられるイベントが発生する可能性が残っているにもかかわらず、資本の出し手は相当リスクを許容する動きに出ている。

■戦略を定める

意思決定するに当たってしなければならない質問が3つある。1つ目の質問はこの先経済は繁栄するのか好景気になるのか。とはいっても、ただ単に好景気なるのにとどまらない。本当にダイナミックな経済がこの先想定されるのかどうか。経済が繁栄すると思う方はアグレッシブに投資をすべきだろう。わたしはそうは思わないが。2つ目はリスク。投資家が直面しているリスクは2つある。現在の世の中で皆さんにとってどちらが重要か。損失を被るリスクとチャンスを失うリスク。現在はどちらのリスクをより心配する必要があるのか。私の見立てでは両方のリスクともバランスが取れている。従って同じぐらい考えなければいけないと思っている。3つ目はどちらの投資戦略をとるか。2008年当時なら好ましいとされる属性は2つあった。資金を持っていることと、度胸を持っていること。ところが07年当時、金融危機の最中なら逆で、望ましいとされるのは慎重さ、保守主義、選択的、リスク管理。07年当時にお金と度胸を投じていたなら危機の影響をもろに受けていただろう。現状、アグレッシブにリスクを取りに行くのか、あるいは慎重さを持って保守主義に徹するのか。私は両者の間のバランスを取るべきだと思っている。

■処方せん

不確かな時代の処方せんは何か。私なりの処方せんのお話をしたい。1つ目は期待感を適正水準に置かなければいけないこと。ローリターンの世界で、高いリターンを期待してもうまくいかない。2つ目は企業部門に投資をすること。きちんと適正に経営された企業であれば、世の中の競争があっても、インフレ、デフレが起きても投資のチャンスはベストと思う。3つ目はアクティブな意思決定にコミットすること。多くの人が世の中は不透明で、不確実な時代だから何もしないでおこうと言う。ところが、何もしないということは何もしないということを意思決定していると理解すべきだと思う。何もしないということは、現状のポートフォリオを追認することで、それ自体がミスかもしれないからだ。一方で、慎重でなければならないという理由は想像上のものではなく、現実的な理由があって慎重であるべきだと言っていることを思い出す必要がある。例えば、ネガティブなシナリオの1つとして、EU(欧州連合)が解体されるというシナリオがある。その確率は決して高くないが、全く可能性がないかといえばそうではない。また、プラス・マイナス、バランスを取って検討するということだ。投資家の方々が失敗する時は前進あるのみだと思っている場合と、慎重でなければならない場合にひたすら慎重さだけを見るべきだと思っている時、いずれにおいても失敗しがちだ。従ってプラス・マイナスのバランスを取らなければならない。それは決して容易なことではない。私の結論としては、状況がそれほど良好なわけではないし、それほど割安なわけでもない。アグレッシブに出る時ではないと思っている。しかし、同様に状況がそれほど悪いかといえば、それほど悪いわけではない。値段が高いかといえば高値というわけでもない。過度に防衛的である必要もないと思っている。だからこそ、先ほどの「前進せよ、ただし慎重に」となるわけだ。

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