現在の状況で一番大切なこと 「不確かな時代における投資」(上)

概 況


モットーは「前進せよ、ただし慎重に」

オークツリー キャピタル マネジメントL.P. ハワード・マークス会長、大いに語る

ハワード・マークス会長

ハワード・マークス会長

米国の大手投資会社オークツリー キャピタル マネジメントL.P.(以下、オークツリー)のハワード・マークス会長が来日した。オークツリーは1995年に設立され、764億ドル(2013年6 月30日現在)の運用資産を有するオルタナティブ投資に特化した、世界有数の投資運用会社、東京オフィスは1998年に開設された。会長のハワード・マークス氏は昨年、自身の投資哲学メモをまとめた「投資で一番大切な20の教え(原題:The Most Important Thing)」(日本経済新聞出版社刊)の日本語版を出版した。同書は、ウォーレン・バフェット氏を含め、国内外で高い評価を受けている。このほど記者発表会では「不確かな時代における投資」と題して、金融危機後の不確実性が高まっている時代に、どのような投資を行っていくべきかについて語った。以下はその話をまとめたもの。

私が2年前に著わした本の「投資で一番大切な20の教えは」は、私自身の投資家としての45年間に及ぶ経験の中で学んだことを書いたもので、昨年は日本語にも翻訳された。その中で、私が投資ビジネスを行ったことを通じて学んだ教訓について書いているが、今回は、その中でも現状に照らして、最も重要だと思う教訓について触れたいと思う。

私の話の中心は米国で、欧州についても触れることにする。また日本についても特別な状況にある。投資は結局、将来をどう見極めるかによって決まってくるが、他方で、将来をなかなか予測できるものではない。だからこそ将来を予測しようとするのではなくて、むしろ現状を判断することに重きを置くことをお勧めしたいと思う。オークツリーはマクロを予想して運用するという運用機関ではない。市場が現在どうなっているかということを観察した上で投資・運用を行っている機関だ。

■振り子の認識

一番大事なこととしては、振り子のように物事が動くという認識だと思う。人、それから市場というのは、結局、欲と恐怖の間を行ったり来たり振り子のように動く、陶酔感と抑うつ感の間も同じように行ったり来り振り子のように動くものだ。楽観視する向きから悲観視へと振れるし、それはまた現状がどうなっているかということを強迫観念、あるいは好ましい展開に対する間でも振れる。そして、リスクトレランス(許容度)とリスク回避の間でも振り子のように振れている。リスク回避性向があるからこそ、市場は健全性を保てるわけで、そうすることで、リスキーな投資を手控えようと考えるし、保守的な前提条件を置こうとするデューディリジェンス(投資対象となる資産の価値・収益力・リスクなどを経営・財務・法務・環境などの観点から詳細に調査・分析すること)も行う。またリスクの高いものには高いプレミアムをつけようとする。ところがリスキーな資産のリターンが良好であると、人というのはリスク回避のことを忘れてしまいがちで、その結果として、市場が危険な場所となってしまう。

40年前、私に強気相場というのはこのように形成されると話してくれた恩師がいた。第1段階は何らかの危機、相場暴落の直後で、マイナスの状況にあって、この先、事態が好転すると想像できる人はこぐ少数に限られる段階だ。第2段階ではほとんどの人がどうも状況が好転しつつあるというふうに考え、それを受け入れ始める段階。ところが第3段階に入ると好転する状況、長いこと改善する状況が続くが故に、みんながこの先、永遠に良くなり続けると誤って、信じ込んでしまう。第1段階は楽観視する人が非常に限られている故に、価格は割安で、バーゲンと言われるような割安な投資ができる。そうすることで儲けることが可能だ。ところが第3段階に入ると楽観視する人がほとんど全員を占めるため、価格は高止まりして、投資をするのが危険になってしまう。従って、これが投資における私の最大の、かつ最良の格言であると思うわけだが、「賢人は最初に物事を行い、愚か者は最後に行動を起こす」というものだ。

■リスクの認識

一番大事なのはリスクを認識すること。多くの人々は、証券投資は質の低い資産を買うと危険であって、質の高い資産を買えば安全だと思っている。これは本当ではない。質の低い資産であったとしても安値で買えば安全な投資が可能であるのに対して、いくら質の高い証券や投資であったとしても、リスキーな価格で買ってしまえば、リスクを伴う。リスクの源は何かと考えると、何を買うかではなくて、買うものに対していくら払うかによってリスクが決まるということと、投資の対象である証券そのものにリスクがあるというよりは市場に参加している参加者の行動によってリスクはもたらされるのだということだ。現在のように一部の市場参加者は高い値段をつけても買いたいと考えるようになり、それが広がっていくと投資はリスキーになっていく。

■防衛的投資

投資は従って、合理的に行うものであると考えるのが重要だと思っている。優れた投資、投資において成功するには大きく2つの方法があって、1つ目は儲かるものに儲ける形で投資する、2つ目は負けないように、損失を出さない物に能力を持って投資をすることだ。私としては、負けないように損失を出さないように賢く投資していくということが、より頼りになる投資方法ではないか。先ほど述べた後者の方がよいのではないかと思っている。それを受けてアグレッシブに投資する人を見ると次の格言を思い出すわけだ。「古参の投資家がいる、一方で大胆な投資家がいる。だが、古参でかつ大胆な投資家はなかなかいない」ということだ。

■忍耐強くオポチュ二ズム追求

最も大事なことの1つはやはり忍耐強く、オポチュ二ズムを追求することだ。ローリターンの世の中において、ハイリターンのチャンスを見いだそうとしても見いだすことはできないからだ。ローリターンの世界においてハイリターンを追求するということを行うと非常に危険な行動にでなければいけなくなるし、それだけ大きなリスクを負うことになる。リスクガードと本来違ったところで投資しようとして、それによってリターンを上げようとするとかなりリスキーな行動に出ざるを得ないということで、これは相当慎重さを持って対応しない限りは危ないということだ。

■落とし穴の回避

最も大事なことの、もう1つはミスを回避するということ、私は現状の環境がどうなっているかということを見極めた上で、この環境下において、どのようなミスを犯しがちであろうかということを考え、そのようなミスを回避するようにしている。現在の環境を考えると、ほかの人を出し抜いて賢く立ち回ろうと思っても、なかなかそういうことをできる環境下にはない。今犯しがちなミスはまさにそういうことをすることだ。つまり環境がどのようになっていているかということをきっちりと把握・理解するということ、その把握をもとに適正なアプローチを慎重にとっていく、環境に合わせていくということ、他者がどのような行動をとっているのか、その行動が市場に影響を及ぼすのかということを見極めることだ。

■結論

私がよく引用する言葉として、ウォーレン・バフェット氏の言葉がある。「他者が慎重でなければないほど、自分たちはさらに慎重でなければならない」というもので、まさに現在慎重さを欠いた行動が見られ始めているのではないかと、私は考えている。オークツリーの現在のモットーとしては非常にシンプルで「前進せよ、ただし慎重に」というものだ。

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