米・欧州、優良物件と非優良物件の利回り格差拡大 ラサール不動産投資顧問「2013年 グローバル不動産投資戦略」

概 況


厳選で非優良物件にも投資チャンス

高野靖央氏

高野靖央氏

高野靖央 投資戦略・リサーチアソシエイトディレクター

ラサール・インベストメント・マネージメントの日本法人、ラサール不動産投資顧問は先に「2013年 グローバル不動産投資戦略」の中間発表を行った。ここでは講演のポイントや、パネルディスカッションでの発言内容の一部を紹介したい。ラサール・インベストメント・マネージメントは世界26拠点に700人のスタッフを抱える世界有数の不動産投資顧問会社。公的年金、企業年金基金、生命保険、政府、基金などの機関投資家や富裕層から資金を預かり、私募・公募合わせて約463億㌦(2013年3月末現在)の運用資産残高を誇る。

■はじめに

「景気回復レベルは国・エリアによってまちまちで、まだら模様。複雑な環境下、ファンドマネージャーの戦略によって、不動産投資のリターンも大きく異なってこよう」

■米国の不動産市場

「これまでの不動産供給抑制により需給バランスが改善し、空室率が低下。中で、オフィス、物流施設、商業施設は新規開発が少なく、空室率の改善傾向が続く見通し。一方、賃貸住宅は新規供給が増加し、空室率は横バイにとどまる見通し」

「世界中のマネーが米国に集中しつつある中、米国の不動産市場も低金利とさまざまな投資家の参入により活況を呈している。レバレッジは不動産投資が盛り上がってきた2005-06年に近づいている。ただ、05-06年と異なり、今回は低リスク投資が主役になっていることから、優良物件が選好されている。その結果、優良物件と非優良物件の価格差が拡大中。優良物件の価格指数は07年に付けたピークを4%上回る水準まで回復している一方、非優良物件の価格指数の回復は遅れている。一方で、非優良物件でも選別すれば強いインカムを生む不動産は豊富にある。こうした中、当社は(1)セカンダリーでの選別投資、(2)優良物件の開発――によりリターンの最大化を目指す」

■欧州の不動産市場

「欧州は総じて金融市場が痛み、経済回復も緩やかだが、新規物件供給が少ないため、不動産市場の底割れリスクは少ない。投資家のリスク回避が続く中、投資資金は英国、ドイツ、フランス、北欧などの経済が比較的に安定的な市場に集中し、米国と同様に、優良物件と非優良物件の利回り格差が拡大している」

「当社は欧州では、欧州金融市場の痛みを投資チャンスに変えてリターンを生み出している。金融市場が痛んでいるため、リファイナンス(借り換え)の不調により、来夏までに10兆円超の不動産ローン不足が発生するとみている。これはメザニンローン(元利回収のリスクが貸し出しと出資の中間に位置する貸し出し)などの投資チャンス」

■アジア太平洋の不動産市場

「国・地域によって経済の回復ペースや金利の方向性が異なり、国・地域ごとに投資戦略を考える必要がある。金利は中国を除いて低く抑えられているが、低金利によって資金が不動産市場に流入しているかといえばそうでもない。例えば、オーストラリアはコモディティ市況がさえないためセンチメントがやや悪化しており、テナント需要にも弱さが出ている。ただ、どの国でも主要都市の優良物件はグロース資金とリスク回避資金の両方から好まれ需要旺盛。セクター別では、近代的な物流施設はすべての国で不足しており需要が強い」

■日本の不動産市場

【全体観】

「この半年ほどで投資環境が最も変化し、投資戦略の見直しが必要なのが日本。金融緩和によって、不動産市場への資金流入が加速し、資金が比較的潤沢な世界へ移行している。アベノミクスの影響としては、(1)優良物件の価格上昇、(2)商業施設と賃貸住宅セクターでは消費増税や輸入材の仕入れコスト上昇などにより、テナントの賃料負担能力の改善が遅れる、(3)オフィスセクターは円安効果による企業収益の増加により改善――といったことが予想されるが、これから打ち出される政策によって投資戦略が変わってくる可能性がある」

【セクター別 価格動向】

「ここ数カ月で都心のオフィス、商業施設の価格が大幅に上昇。賃貸住宅に加えて、安定的にインカムを生み出すセクターとして認知されてきた物流施設も価格上昇傾向にある。一方、郊外型商業施設やホテルの価格は全く回復していない」

【セクター別 新規供給動向】

「オフィスと賃貸住宅は過去平均並みの供給が今後数年続くとみている。物流施設は今年から新たな開発が増えるサイクルに入るが、それを吸収するだけの需要があり、2015年になってようやく需要と供給が均衡点に達しよう。ここ2、3年は安定、もしくは、良好なリターンが期待できる。仮に需給バランスが大きく崩れてしまったとしても、物流施設は開発期間が短いため、供給調整は比較的容易であり、悪い状態が長く続く可能性は低いとみる」

【投資戦略】

「当社は、従来一貫して開発を推進してきた『近代的物流施設』のほか、『必需品主体の郊外型商業施設』『優良オフィスのリースアップ』に最も優れた投資機会があると考えている。このほか、『地方の中心的エリアの賃貸住宅』『主要都市の3-4星ホテル』『主要エリアの都市型商業施設のリースアップ』『賃貸から分譲住宅への転用』などにも優れた投資機会があると考えている」

【消費税引き上げの影響】

「商業施設の中でも特に非必需品分野の動きは鈍るだろう。また、個人の支払い能力が痛み、賃料軽減圧力もかかってこよう。ただ、いずれにしても不動産への影響はタイムラグがあり、仮に来年から消費税が引き上げとなると、その影響は再来年から出てくることになろうが、非常に緩やかな景気回復によってその悪影響は時間をかけて吸収されよう」

■グローバル市場のまとめ

「主要都市では優良物件と非優良物件の利回り格差が続いており、物件選別をしっかりすれば非優良物件にも投資チャンスありとみる。また、インフレを見越したインフレヘッジへの対応も考えたい。エリア別では、ユーロ圏は引き続き資本ギャップが最良の投資機会を生む。成長投資は一部の新興国で魅力的だが、中国の政策リスクが高まっており、セクターや都市を選別する必要がある」

中嶋康雄氏

中嶋康雄氏

<パネルディスカッション>

中嶋康雄・代表取締役兼CEO
奥村邦彦・執行役員アクイジション担当

司会 「この数カ月で、日本の不動産を取り巻く環境が劇的に変わった」

奥村 「特にコア投資(ローリスク・ローリターン型。主に賃貸住宅でインカムゲインを狙う投資)へのニーズが顕著。REIT(不動産投信)、私募REIT、国内外のコア投資ファンド、国内外の富裕層、事業会社など、さまざまな投資家が参戦してきている。また、これまで『誰が買うのか』といわれてきたような大型案件を含め、数百億円-1,000億円超の大型案件が動き始めた。REITやソブリン系(政府系)、外資系ファンドなどがひるまなくなってきており、塩漬け案件もぼちぼち動き始めた。また、優良物件の賃料の底打ちが実例として出てきた。賃料の成長を査定に織り込むことは、バブル崩壊の教訓からこれまではタブー視されていたが、ここにきて賃料の成長を査定に織り込み始める動きも出てきた」

奥村邦彦氏

奥村邦彦氏

「10億-30億円の価格帯の物件は流動性が高く、活発に取引されている。一方、郊外型商業施設でサブテナントの賃料・売り上げ開示がない物件については価格回復に遅れが生じている。地域別では、東京は需給が逼迫(ひっぱく)し、キャップレートの低下傾向が顕著である。東京の中心部から少しはずれたところにある物件に、徐々にコア、コアプラス系の資金が向いてきている」

司会 「日本の物流施設はどうか」

中嶋 「賃料の安定感は今でも続いている。それを心のよりどころにして開発を進めるデベロッパーがこの1年半の間で増えてきた。以前に比べると競争は激しいが、他のセクターに比べると、まだデベロッパーは少なく競争は激しくない。テナントが求める近代的な物流施設は、物流施設全体の2.5%しかなく、ユーザーニーズに基づき開発をしているうちはコンスタントな需要に支えられ、成長が続くであろう」

司会 「オポチュニスティック投資(ハイリスク・ハイリターン型。割安な物件を買い、バリューアップし、高く売却してキャピタルゲインを狙う投資)はどうか」

奥村 「コア投資が活発になる中、リースアップや改修工事などによるバリューアップ、あるいはコア資本が向かうセクター、ロケーションを先回りして買うのが基本戦略。借入環境は引き続き良好であり、優良物件であれば購入資金の70-75%を調達するのはそれほど難しいことではない。安価な借入をうまく利用することで、ハイリターンを狙える環境にある」

司会 「ここからのラサール不動産投資顧問の投資について」

中嶋 「『コア投資の一歩先を行く投資戦略』として、Bクラスのオフィスや住居系不動産への投資は、今後2-3年で800億-1,000億円を目指して投資を進めていく。こちらはオポチュニスティック投資が主力。物流施設も近代的物流施設を中心に、今後2-3年で800億-1,000億円クラスの投資を進めていく。このほか、コア投資も1,400億-1,500億円を想定している。つまり、日本だけで合計3,000億円の投資を今後2-3年で進めていく。そういうチャンスがあるマーケットとみている。アベノミクスの下、不動産を巡る環境は随分変わったものの、すべからく資金が回っているわけではなく、モザイク模様。そこを丁寧に拾い、一歩先行く投資を目指す」

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