コモディティ価格上昇、鉱業投資拡大は「道半ば」 アジアとともに発展続くオーストラリアの魅力 HSBCオーストラリア経済セミナー

概 況


HSBCグローバル・リサーチ ポール・ブロックサム氏

HSBCグローバル・リサーチ オーストラリアおよびニュージーランド チーフ・エコノミスト
ポール・ブロックサム氏

債務問題に悩む欧米諸国を横目に、堅実な成長を続けてきたアジア諸国。そして、先進国でありながらアジアに隣接するオーストラリアもこれまで21年連続でGDP(国内総生産)プラス成長を続けている好成長国であることは、残念ながらあまり知られていない。HSBCは10月25日に「オーストラリア経済セミナー」を開催。チーフ・エコノミストのポール・ブロックサム氏が語ったオーストラリア経済の現状と見通しのポイントを抜粋して紹介する。

足元「減速」も、来年回復見込む

OECD(経済協力開発機構)加盟国など先進国ではほかに例を見ない高成長を続けるオーストラリアだが、足元はグローバル経済に引っ張られるかたちで少々減速気味。今第2・四半期の実質GDP成長率は前期比0.6%増と、好調だった第1・四半期の同1.4%増からの減速は明らかだが、2013年以降は再び上昇に転じるとみる。

一方で消費者、企業のセンチメントを示す「消費者信頼感指数」「企業景況感指数」は平均水準で横ばいが続く。良くも悪くもない状態が昨年来続いているわけだが、こちらも今後は改善されるとみる。オーストラリア準備銀行は10月2日、政策金利を0.25%引き下げて3.25%とした。これは3年ぶりの低水準で、今後6カ月ほどは景況感を下支えすることが期待される。

センチメント調査

HSBCはオーストラリアの経済が今後も堅調を維持するとみる。その理由を5つのポイントに沿って説明しよう。

ポイント(1)「経済の重心」は欧米からアジアへ

世界の成長をけん引する「経済の重心」は欧米から東方へとシフトを続けている。世界GDPに占める各国の割合を見ると、米国が第二次世界大戦時の32%をピークに下がり続ける一方、近年は中国が大幅に増加。既にユーロ圏をしのぎ、今後10年内には米国をも上回るとみられる。

ともにBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一翼を担うインドも急速に頭角を現しており、2025年にはこの2カ国だけで世界最大の経済圏となることが予想されている。この状況はアジアに隣接するオーストラリアにも当然、利益をもたらす。

とはいえ、中国の成長についても最近、減速が明らかに。昨年9%以上あったGDP成長率は足元で7.5%に下落。ただし、先進国のそれとは原因がまるで異なり、中国の場合、当局が金融引き締めを行うなどしてコントロールした結果のもの。2013年は再び8%超の成長率を回復するとみる。世界有数の資源国オーストラリアにとって、このような新興国の成長は非常に重要な成長エンジンとなる。

ポイント(2)コモディティ価格高騰とその背景

コモディティ価格は直近10年間ずっと上昇が続いている。しかし、例外的に高くなっているのではなく、実際には「1980―90年代の低水準」から、長期的な平均に近づきつつあるといえる。

80―90年代のコモディティ需要は、既に経済的に成熟した先進国が支えていたため低水準にあったが、今後はアジアなど新興国での需要が高まるとみる。コモディティ価格は一般的に1人当たりGDPが3000ドルに到達すると急激に増え始め、2万ドルで横ばいに。アジアには2011年に3000ドルを突破したインドネシアや到達間近のフィリピンなど、旺盛なコモディティ需要が当面続くとみられる国が複数ある。

実質コモディティ価格の動向

ポイント(3)鉱業投資ブームはまだ終わらない

新興国のコモディティ需要に支えられた、オーストラリアの鉱業ブームは“道半ば”。鉱業ブームには(1)コモディティ価格が高騰して所得を押し上げ、投資意欲を高める(2)投資が増加(3)生産能力が整い輸出が拡大――という3段階があるが、オーストラリアは現在、2段階目の半ばあたりに位置する。

オーストラリアのコモディティ価格はピークを打ったが、それでも過去最高水準にあり、米ドルベースでは直近10年間で4倍増の水準に。足元では中国経済の減速などでコモディティ価格は下落傾向にあるが、これは今年下半期の成長が少々鈍化することを示すものの、じき収まるとみる。

オーストラリアにおける鉱業投資はとりわけ今年と来年の成長に大きく寄与する見込み。現在1800億豪ドル規模のLNG(液化天然ガス)関連のプロジェクトで生産設備などを建設中で、完成後には輸出の増加も期待される。オーストラリア資源・エネルギー経済局によれば、2017年度まではLNG、石炭、鉄鋼石ともに輸出拡大が続く見通し。

ポイント(4)アジア中間層拡大の恩恵は「鉱業」にとどまらず

アジアの中間所得層の拡大は、鉱業セクター以外にも大きな恩恵をオーストラリア経済にもたらす。

●住宅・耐久消費財に対するニーズ増…コモディティにとってプラス要因。例えば自動車の保有台数は米国が1000人当たり800台、日本が600台保有されているのに対し、中国は50台にとどまる。2018年には世界の自動車売上台数(約8000万台)の4分の1を中国が占めると言われている。

●高品質の食品に対する需要増…所得増加に伴い穀物や肉の消費量が増えると、オーストラリアの酪農や畜産にプラス。

●教育サービスに対する需要増…英語圏のオーストラリアは世界中から大勢の留学生を受け入れている。

●休暇に関する需要増…観光産業にプラス。中国の訪豪者数は過去2年間で倍増。

ポイント(5)国内経済の不均衡を是正

ほかの先進国同様、オーストラリアの信用の伸びは低迷を続けているが、幸運にも、コモディティ価格の上昇がほかのセクターの下落を相殺するという構図が続いていた。そのため、内需の伸び率はこの1年間で6%に近い水準が続いているが、今後は内需と国内貸出の反転が起こるとみる。オーストラリア準備銀行は利下げを行うことで貸出を伸ばそうとしており、その効果が徐々に表れている。企業や個人向けの貸出が増えているほか、住宅価格も上昇に転じている。住宅価格は6月までの1年半で8%下落したが、直近4カ月は3%上昇した。

国内需要と貸出

課題:生産性の伸び悩みとインフレ懸念

労働時間当たりのGDPを見ると、直近6年間では年間1%ほどと、それ以前の平均2%ほどから大きく低下。つまり、GDP成長を「資本財」「労働時間」「生産性」に分けて分析すると、生産性の部分が成長に寄与していないという結果に。一方で賃金の伸びは堅調なため、インフレの上ブレが懸念される。

ところがオーストラリア準備銀行は既に政策金利を3.25%と、中立水準5%を大きく下回る水準にまで引き下げており、利下げ余地は限定的。利下げは年末までにあと1回、おそらく来年半ばまでは据え置かれ、下半期には利上げに転じるとみる。

貸出の伸び率

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