規制でファンド市場活性化に期待 日本・ルクセンブルク

概 況


世界第2位のファンド残高を誇る金融センターの1つであるルクセンブルクから、PwC欧州の資産運用リーダーをはじめとするPwCのファンドスペシャリストが来日した。そこで、PwCルクセンブルク法人のパートナーで、PwCルクセンブルク資産運用リーダーのディディエ・プリー氏に海外規制の最新動向およびクロスボーダー・ファンド販売チャネルの拡大などについて、また、PwCのメンバーファームであるあらた監査法人のパートナーで、第3金融部長(資産運用)の和田渉氏に日本の資産運用業界の規制の最新動向などについて聞いた。

「UCITS」に加え、22日から「AIFMD」導入

ディディエ・プリー氏

ディディエ・プリー氏

PwCルクセンブルク資産運用リーダーのディディエ・プリー氏に聞く

■海外規制の最新動向

ルクセンブルクは、アメリカに次ぐ第2位の規模のファンド・センターだ。ファンド・ビジネスをけん引しているのは、UCITS(ユーシッツ、Undertaking for a Collective Investment in Transferable Securitiesの略)と呼ばれる公募ファンドだ。UCITSとはEU(欧州連合)の法律「UCITSに関する欧州委員会指令」に準拠して設立、運用されているファンドである。今日では運用の柔軟性と投資家保護の体制が評価され、国境をまたいで販売実績が伸びている。ルクセンブルク籍のUCITSの販売実績は、グローバルにおいて、公募のクロスボーダー・ファンドにおける68%の市場占有率を誇る。ルクセンブルクの規制当局は、UCITSの資産を預かるカストディアン・バンクの責任を増強するなど、UCITSの投資家保護規制をさらに強化しようと考えている。

ルクセンブルクにおいてはUCITSに加え、私募ファンド(オルタナティブ投資ファンド)についても活発に議論がなされている。オルタナティブ投資に関する次のステップは、AIFMD(オルタナティブ投資ファンド運用者指令)と呼ばれる規制だ。欧州各国はAIFMDを本年7月22日から導入する。AIFMDの規制対象にはプライベート・エクイティや不動産ファンド、ヘッジ・ファンドが含まれている。ルクセンブルクにおいてはAIFMD導入の前においてもヘッジ・ファンドに関して厳格な規制が一部整っていた。欧州各国においても、AIFMDの導入に伴いヘッジ・ファンドを規制下に置こうという動きがあるわけだが、ルクセンブルクにおいては、ヘッジ・ファンドは既に規制下にあることから、他国に先んじて成功を収めるであろう。

AIFMDがヨーロッパで導入されることにより、今後ケイマン籍のファンドがどこまで売れるのか疑問である。AIFMDにより、2015年より前にケイマンのファンドがヨーロッパの販売パスポートを受けられるという可能性は限定的であると考えている。今のところは私募ベースでケイマン籍のファンドをヨーロッパで販売するということになると考えられる。一方、ヨーロッパに籍を持っているファンドは、もちろんルクセンブルク籍ファンドも含め、ヨーロッパの販売パスポートを導入当初から持っており、2013年7月よりヨーロッパ全域で販売が可能である。

■欧州MMFの議論

いわゆるシャドー・バンキング規制について、ヨーロッパでは議論の最中であり、どのような結果になるのか現状において断言することは難しい。欧州委員会は、今はどこまでがシャドー・バンキングとして規制対象になるのか、MMFを含め検討している。まだ明確な決定がなされているとは言えない状況にあり、動向を見守っている。

■日本・アジア各国の運用会社の欧州での取り組み

UCITS指令は、導入当初はヨーロッパ市場におけるファンド規制であったが、これが大きな成功を収めUCITSは欧州域外の市場にも広まった。UCITSは今日では、アジア、中東、アフリカ、南米でも販売されている。アジア諸国の運用会社も、ルクセンブルクを使ってアジアのさまざまな国の市場でUCITSファンドを販売するようになっている。結果、ヨーロッパ以外で売られたUCITSの売上比率は約50%に達し、この大半はアジアで発生している。シンガポール、香港、台湾、韓国でも広く販売されており、グローバルに見て国境を越えて販売できるファンドはUCITSのみだと言える。

日本の金融機関もヨーロッパでの存在感を高めており、UCITSのルクセンブルク管理会社を設立して新規ファンドを立ち上げる動きも見えている。日本の運用会社は今後導入が予定されているAIFMDにも準拠することが期待されている。日本の運用会社はオルタナティブ投資でもAIFMDのメリットを享受し成功を収めるであろう。

ファンドの規制柔軟化と投資家保護で議論

和田渉氏

和田渉氏

あらた監査法人第3金融部長 和田渉氏に聞く

■シャドー・バンキングとMMF

シャドー・バンキング規制は、欧米で議論が先行しているが、日本でも同様に議論が進んでいる。シャドー・バンキングにおいて問題となっている中にMMFがある。MMFは、先の金融危機において海外の一部のMMFが取り付け騒ぎに見舞われたことから、金融システムの安定の観点から、その脆弱(ぜいじゃく)性が問題視されるようになった。わが国においては、MMFが機関投資家に利用されている欧米とは少し状況も違うが、欧米の規制動向を踏まえて、今後MMFに関する規制が議論される可能性はある。

■日本のファンド規制の最新動向

金融庁が設置した投資信託規制の見直しに関するワーキング・グループにおいて、ファンド規制の1つ目の議論として、国際的な規制の動向や経済社会情勢の変化に応じた規制の柔軟化、規制緩和について議論が行われている。受益者書面決議がより容易になるような改正や、コスト削減のために外部委託をしやすくするような規制の明確化、ファンド間の取引がより容易になるような形での規定の緩和などが検討されている。

2つ目の議論として、投資家保護の観点での議論が行われている。AIJ事件などファンドを巡ってさまざまな問題も起きており、投資家保護を行うために情報開示を中心とした規制強化策が検討されている。具体的には投資家に対して提出する運用報告書をより分かりやすくするような改正や、販売手数料・信託報酬などコストについての詳細な説明、商品のリスクなどの詳細な説明が主な内容だ。また、投資家がトータル・リターンとしてどれだけ利益を上げたのか分かりにくくなっていることも問題点として挙げられている。投資信託には基準価額(NAV)と分配金という2つの指標がある。基準価額は分配金を支払うと下がる関係にある。投資家からは分配金込みで自分がどの程度もうかったのかを理解したい、との声も上がっているが、この点、これまでのファンドの情報開示では分かりにくかった面もあるため、これが分かりやすくなるような情報の開示が検討され、今、実務的な議論がなされている。

■これからの日本のファンド規制

日本においては欧米諸国と比べ、個人金融資産に占める投資信託の割合は必ずしも高くないと言われている。その原因の1つに日本の投資信託制度の下では、投資家のニーズに見合った多様な商品を提供できないという指摘がある。例えば、商品によっては海外のファンドの方が運用が容易であるなどの指摘である。

日本でもコンプライアンスや規制に対するセンシティビティが上がってきている状況の中で、ルクセンブルクのファンド規制は、運用の柔軟性と明確な投資家保護の体制が兼ね備えられているということで、参考とすべき点が多い。日本で外国籍ファンドを販売する場合、ルクセンブルクの位置付けは大きくなることはあっても小さくなることはないであろう。また、今後は、日本のファンド規制もさらなる改善が進むことで、日本、ルクセンブルク双方のファンド市場がより活性化することを期待したい。

PwCおよびあらた監査法人について
PwCは、世界158カ国に及ぶグローバルネットワークに18万人以上のスタッフを有し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスの提供を通じ、企業・団体や個人の価値創造を支援している。あらた監査法人は、卓越したプロフェッショナルサービスとしての監査を提供することをミッションとし、PwCの手法と実務を、日本の市場環境に適した形で提供している。さらに、国際財務報告基準(IFRS)の導入、財務報告に係る内部統制、また株式公開に関する助言など、幅広い分野でクライアントを支援している。
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