低成長続く米国経済の見通し HSBC米国経済セミナー

概 況


FRB「緩和出口戦略」を読み解く

HSBCセキュリティーズ
マネージング・ダイレクター兼米国チーフ・エコノミスト ケビン・ローガン氏

ケビン・ローガン氏

ケビン・ローガン氏

先ごろFRB(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長が量的緩和の年内終了を示唆したことから金融市場のボラティリティが高まっている。そんな折、HSBCは米国チーフ・エコノミストのケビン・ローガン氏による米国経済セミナーを開催。米国経済と金融・財政政策の見通しが語られた。(本文の内容はセミナー開催日6月21日時点のもの)

米国経済の現状と見通し

今後も「緩やかな成長」続く

過去数年間、アナリストや金融担当者などの大半は米国経済を過大評価してきた。例えば2010年のGDP(国内総生産)成長率をFRBは3.2%、市場は2.9%と予想していたが、実際は2.4%にとどまった。そして予想と実績の格差は年々拡大している。13年はFRBが2.7%、市場が2.2%を予想するのに対して、実際は1.8-1.9%ほどにとどまるとみる。

低成長の要因は「負債圧縮」と「緊縮財政」だ。これまでは信用やレバレッジが過大になり過ぎたとき、政府は減税したり支出を増やすなどして経済成長を促してきたが、現在はこの“ツケ”に苦しんでいる。非政府債務は04年にそれまでの2兆ドルから3.5兆ドルに跳ね上がり、以降4年間も高水準を維持した。

図1 消費支出の伸び率は低い

図1 消費支出の伸び率は低い

その後08年の住宅ローンのデフォルトを機に、企業も家計も借り入れをやめた。負債を圧縮するとともに、支出も抑えたため、消費支出の伸びは、それ以前の年率2.8%から2.2%に低下した(図1)。この低成長トレンドはあと2年ほど続くとみる。

緊縮財政が成長の足かせに

かつて信用バブルは存在せず、これほど拡大したレバレッジ水準も例がない。にもかかわらず、政府は解決を過去の経験則に依存してきた。

01年のリセッション時にはまず、民間部門のGDP成長率が低下。これを押し上げるために、政府部門が支出を増やした。こうして相殺し合うのが通常の経済行動なのだが、08年のリセッション時には政府部門の支出が01年ほどには伸びず、民間部門が大失速した(図2)。

図2 緊縮財政がGDP成長率を抑制

図2 緊縮財政がGDP成長率を抑制

州政府は固定資産税に、連邦政府は法人税、所得税に税収を依存するが、危機時には住宅の価値も消費者の支出も下がったため、固定資産税や消費税からの税収が減少。こうして政府は削減を余儀なくされた。

成長ストーリーを検証/検証(1)住宅市場の回復

先ごろ住宅販売が年間500万戸に到達したとのニュースがあった。実質民間住宅投資は前年比10%台で伸びており、リセッションのかなりの部分の責任を負っていた住宅市場について「改善している」との声が聞かれるが、実情は異なる。住宅市場そのものが縮小しており、03年のピーク時にはGDP寄与度が0.6%ほどだったが、リセッションのボトムでは-1%超にまで低下し、足元では0.3%ほどに。

確かに、不動産による「資産効果」はプラスだが、これは穏やかな影響しか与えない。「住宅価格が上昇しているときには、支出も増える傾向に」とも言われるが、不動産の予想資産効果はピーク時の2,000億ドルほどから、今年、来年は800億ドルくらいと予測されている。米国内のトータル消費支出額9兆ドルに対するインパクトは大きくない。

検証(2)シェールガス革命

足元で騒がれているシェールガス革命だが、これも米国経済を飛躍的に押し上げる要因にはならないと考える。

図3 石油ガス生産によるGDPに対する寄与度は大きくない

図3 石油ガス生産によるGDPに対する寄与度は大きくない

1980年代に米国は1日当たり900万バレルもの石油を生産していたが、現在は油田が枯渇して2006-08年の水準、500万バレルにまで低下。しかし、経済成長がスローペースのため、石油価格はさほど上昇していない。一方で天然ガスは生産が増えるも輸入が減っており、石油、ガスともに業界自体が縮小傾向に。GDPに占めるシェアはかつての4%ほどから1.5%にまで低下している(図3)。

FRBの政策

先ごろ行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)後の会見で、FRBのバーナンキ議長は年内にも量的緩和策を縮小させるとの見方を示した。これを受けて米国の株・債券市場は急落。しかし私は、これは政策変更時に見られる投資家のリスク再調整であり、さらなる株価暴落などは引き起こされないと考える。

確かにFRBのメッセージは複雑なものだったが、非常に慎重な姿勢がうかがえた。将来の政策余地を狭めないためにも、とりわけバランスシートの拡大に伴う潜在的なコストを懸念している。足元では資産価値の上昇とともに株価が上向き、雇用も改善。自立回復の兆しが見えたことで先の発表に至ったわけだが、それでも市場ではボラティリティが発生したことから、FRBは今後も慎重姿勢を維持するだろう。

量的緩和の出口戦略

図4 FRBの出口

図4 FRBの出口

FRBは徐々に買い入れを減らして14年末半ばのゼロを目指し、14年からは償還された債券への再投資も行わない。混乱を避けるため「保有証券は償還まで売却しない」とも明言している。こうしてバランスシートを徐々に縮小させることで、ピーク時にはいったん4兆ドルに達するも、20年には通貨流通量の伸び(1年当たり5%の伸び率)にまで正常化するとみられる(図4)。

FFレートの見通し

FRBは「量的緩和」のほかに「FFレート」という政策ツールを持つ。量的緩和を終了させた後、15年からFFレートの引き上げが始まるとの見方が大半だが、そのペースには2つのシナリオを想定する。経済などの状況にもよるが、バランスシートを縮小させるため一気に引き上げられる可能性も。あるいは、「経済は少しずつ拡大している」という前提に立てば、16年の平均FFレートは3%、17年以降の平均は4%とみている。

戻る