2013年以降のアジア経済の見通し HSBCアジア経済セミナー

概 況


足元のインフレ懸念は軽微 日銀の緩和策で成長拡大が続く

フレドリック・ニューマン氏

フレドリック・ニューマン氏

HSBC 調査部アジア担当チーフ・エコノミスト兼アジア経済調査部門長
フレドリック・ニューマン氏

HSBCは5月30日にアジア経済セミナーを開催。足元で成長鈍化を懸念する声も聞かれるアジア新興国だが、「当面は楽観的にみている」と語るのは、調査部アジア担当チーフ・エコノミスト兼アジア経済調査部門長のフレドリック・ニューマン氏。同氏がアジア経済をテーマに行った講演内容を抜粋して紹介する。

アジア新興国の高成長続く

アジア新興国では依然として高成長が続いている。鉱工業生産指数(図1)を見ると、米国、ユーロ圏が金融危機前のピークを下回るのに対して、アジア新興国は既に50%ほど上回って過去最高水準に。回復ペースの早さもさることながら、かつて言われた「西側諸国とのデカップリング」が確認される点もポジティブ。

輸出低迷も「消費」は好調

図1 鉱工業生産指数

図1 鉱工業生産指数

しかしながら、アジア新興国の成長の一部は欧米の債務によって賄われていることも事実。西側諸国が金利上昇に転じれば、その影響を免れないだろう。

そして足元では景気減速を示す指標も。日本を除くアジアの新規受注がマイナスに転じており、市場は、鉱工業生産指数もこれに追随して下落、つまり、アジア新興国の成長の減速を予想している。

図2 アジアの消費者信頼感指数

図2 アジアの消費者信頼感指数

一方で、過去数年間の成長をもたらした「消費力」は健在だ。日本を除くアジアの消費者信頼感指数(図2)は再び上向いて過去最高水準にあり、小売売上高についても大きく崩壊したという状態にはない。そして、アジア新興国の平均失業率は3%台(日本とインドを除く)と過去最低に近い水準にあり、賃金上昇も続いている。

懸念は過大/中国の現状

中国に対するハードランディング懸念は過大だと考える。理由をいくつか説明したい。

「大卒就職難」報道のカラクリ

大卒者の就職率が低迷しているとのニュースが聞かれる。しかし、中国全体の就業率が悪化しているのではなく、正しくは、大学数がここ数年で3倍に増加したため、急増した卒業者を経済が吸収できずにいる。

インフラ投資はV字型回復見込む

中国の成長の大部分はインフラ支出によって支えられているが、昨年の融資総量がマイナスに落ち込んだことから、市場はハードランディングを危惧(きぐ)している。しかしながら、当局もこれを理解しており、既に多くの新規プロジェクトを発表済み。結果、足元では融資総量が高い伸びを示しており、これに伴って下半期には固定資産投資が前年比で30%ほどに伸びることが予想される(図3)。

図3 中国の固定資産

図3 中国の固定資産

インフラ投資の増加は、指導部の変化とも大きく関係している。習近平総書記が国家主席に就任すると共に地方政府も交代。中国ではこれまでトップが交代するたびに新しいプロジェクトを立ち上げるという歴史を何度も繰り返してきた。

そして新指導部は中国の経済繁栄のポイントを「都市化」に置く。中国の都市化はまだ道半ばであり、総人口に占める地方人口の割合は1950年の90%台から2012年には50%を下回ったものの、米国の20%台にはまだ遠い。現在も毎年2,600万人が地方から都市へと移住しており、彼らがインフラ投資加速化の必要性を支えている。

例えば成都市。指導部は人口が同程度の東京中心部と同規模のインフラ整備を目指しているようで、現在2路線しかない地下鉄についてもしかり。時間はかかるが、実現可能だろう。オリンピックに備えて敷設が始まった北京の地下鉄は、今やロンドンと同規模にまで拡大している。環境問題を解決するためにも公共運輸の改善は欠かせず、指導部はさらにあと70ほどの都市が北京を目指すべきだと考えているもよう。

アジアの信用拡大はまだ続く

こうして都市化を加速させるためには債務の上乗せが必要だが、それは、アジアの成長モデルの課題でもある。

中国を含めたアジア諸国ではGDP(国内総生産)に占める信用の割合が2006年以降、拡大している。世界金融危機時には2四半期だけ縮小するも、再び拡大して、現在は1997年のピークを上回っている。こうしてレバレッジを拡大することで、冒頭に述べた「鉱工業生産指数」を押し上げてきた。

このようなレバレッジ拡大については脆弱(ぜいじゃく)性を危惧する向きもあるが、私はアジアの場合、この先130%ほどにまで拡大可能とみている。所得向上とともに債務受容量も拡大したため、あと2年ほどは債務の上積みが可能だろう。

このようなアジアの潜在的なプロセスが終わるトリガーには、金融スキャンダル(信頼が失われる出来事)のほか、「グローバル金利の上昇」「インフレの上昇」が挙げられる。

懸念(1)金利上昇の可能性と影響

あと2年間は金利上昇の可能性は低いとみる。欧米の生産性は以前のピークにはまだ遠く、FRB(米連邦準備制度理事会)は2014年まで量的緩和を続けてバランスシートの現状維持を目指すだろう。そして日銀はバランスシートを1.5兆ドル拡大することを明言している。

もしも西側諸国が私の予想に反して金利を引き上げた場合、多大な債務を抱えるアジア諸国にとっては大問題になる可能性が。そして、足元では米国の10年債金利が上昇するなどの変化が見られ、市場は量的緩和策の縮小を懸念している。

しかしながら、たとえFRBの緩和策が縮小されたとしても、アジア諸国における債務バブルは終わらないと考える。1994年にはFRBが金利を引き上げたものの、アジアの信用の割合は上昇した。日銀が同時に量的緩和を行っており、こちらのほうが強く機能したためで、これは、今日のアグレッシブな日銀の状況とも類似している。

懸念(2)インフレ上昇は2-3年後

図4 世界のインフレ率のかい離

図4 世界のインフレ率のかい離

世界を見渡しても足元のインフレのリスクは小さいと言える。食料もエネルギー価格も安定。HSBCが毎月行っている企業調査を見ても、最近ではインプット価格、アウトプット価格ともに下落傾向に。デフレ的な環境が見られることから、今後半年ー1年ほどは心配なさそうだ。

しかしながら基調のインフレは上昇傾向にあり、2-3年後にはインフレ率上昇の可能性が。アジアでは2000年以降レバレッジの拡大とともに賃金上昇や失業率低下など、現在と同様の環境が見られ、その後は静かにインフレ率が上昇した経緯がある(図4)。

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