“投資マル優”日本版ISAの概要  投資家の利点大きく、すそ野拡大の起爆剤にも 日興アセットマネジメント プレスアカデミー カスタマーサポート部長 汐見拓哉氏

概 況


日興アセットマネジメント カスタマーサポート部長 汐見拓哉氏

日興アセットマネジメント カスタマーサポート部長 汐見拓哉氏

2014年から導入予定の「日本版ISA(少額投資非課税制度)」。個人の資金を株式市場に呼び込むため、上場株式や株式投資信託の配当・譲渡所得を最長10年にわたって非課税とする制度だ。日興アセットマネジメントの汐見拓哉カスタマーサポート部長は「かつて日本の貯蓄率を高めた『マル優』の“投資版”ともいえる制度。個人投資家には大きなプラス」と語る。証券優遇税制が本則の20%に戻る2014年1月からの導入が決まっているにもかかわらず、時限措置の恒久化や非課税枠の拡大などを巡って現在も議論が続けられていることもあり、投資家の認知は依然として進んでいない。そこで日興アセットマネジメントは記者向けに勉強会を開催。金融庁が財務省に要望している拡充案の詳細、制度スタートが個人投資家や業界に及ぼすインパクトなど、本制度に関する概要と同社の見解が語られた。

■「日本版ISA」とは

正式名称は「非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置」。英国で広く普及している非課税制度ISA(Individual Savings Account)の日本版で、20歳以上の日本の居住者であれば各年1人1口座ずつISA口座を開設することができ、毎年、投資額100万円まで上場株式や株式投信の配当所得、譲渡所得が非課税になる制度。現在の証券優遇税制(配当所得や譲渡所得に係る本則税率20%を10%とするもの)の本則税率化に合わせて、2014年1月に導入が予定されている。

税制改正の見直しのイメージ

■具体的な目標数値が浮上 「拡充案」の検討も本格化M

7月末に閣議決定された「日本再生戦略」で、「日本版ISA」による投資総額の目標が「2020年までに25兆円」と明記された。さらに、9月7日には金融庁が2013年度税制改正要望の中で、日本版ISAの導入期間(投資可能な期間)を恒久化することや、非課税総額の上限を300万円から500万円に拡大することを盛り込んだほか、対象商品を公社債・公社債投信に拡大すること、毎年の口座開設を不要とすることなども要望項目に挙げている。来年度税制改正大綱の取りまとめに向け議論が深められている政府と民主党の両税制調査会において、これらの拡充案についての検討も本格化している。
「日本再生戦略」が示す「2020年までに25兆円」との成果目標は、決して過大ではない。同様の制度を持つイギリスの状況と照らし合わせると、日本版ISAが秘める“可能性”が浮かび上がってくる。

■英国版ISAとの比較からみる日本にもたらすインパクト

(1)英国版ISA

英国版ISAは、日本版ISAとは少し違い、預金やMMFを対象とする「預金ISA」と、株式や債券、投資信託などを対象とした「株式ISA」の2種類がある。2010年度末の残高は合計で3848億ポンド(約46兆円)。このうち「株式ISA」の残高は1927億ポンド(約23兆円)で、その半分以上(12兆円)を投信が占める。

「英国版ISA」の残高

(2)英国を大きく上回る日本の有資格者数と個人金融資産

英国では総人口6300万人のうち、約5000万人がISAの有資格者で、預金ISAと株式ISAのいずれかを2365万人が利用している。英国の個人金融資産は4.1兆ポンド(約488兆円)で、これに占める英国版ISAの割合は約9%。残高、利用者数とも導入以降、ほぼ一貫して右肩上がりに増加している。
一方、日本版ISAの有資格者である20歳以上の人口は、総人口(1億2758万人)の82%(1億491万人)と、英国の2倍超。日本の個人金融資産1500兆円は英国の3倍に当たる。英国の株式ISAが23兆円と、個人金融資産の5%近くを占めていることと重ね合わせると、「日本再生戦略」が示す25兆円は決して驚くような水準ではないことが分かる。

(3)投資信託に与える影響

英国の投信残高全体(約68兆円)に占める英国版ISA経由の投信残高は約2割に達しており、投信市場での存在感は大きい。株や債券への直接投資に比べて少額から買えること、また、1年当たりの投資上限額が決まっている制度上、金額指定で購入できる使い勝手の良さが、ISA口座で投信が選ばれている理由のようだ。
翻って日本。日本の公募株式投信の残高は2012年8月末現在で約48兆円にとどまる。個人金融資産の大半が現預金に滞留しており、これらの一部でも投資に振り向けられれば、大きなインパクトになる。日本ではかつて少額貯蓄非課税制度「マル優」がすべての個人に適用されていたが、日本版ISAはいわば「投資マル優」として、非課税制度を好む日本人に広く浸透する可能性がある。

さらに、2011年1月から1回当たり1兆円を超える固定5年の個人向け国債の大量償還が始まっている上に、日本版ISA導入予定の2014年1月以降は同じく1回当たり1兆円を超える変動10年国債の償還も始まる。日本版ISAには、これら資金の新たな受け入れ先として、また、「貯蓄から投資へ」の流れを進展させる起爆剤としての期待も寄せられている。

(4)投資信託の可能性

日本の公募株式投信と公募公社債投信を合わせた投信残高は足元で58兆円と1989年から増えておらず、解約率は42%にまで上昇している。投信市場は拡大を続けてきたとは言い難く、新しい投資資金の流入と投信の長期保有が望まれている。

英国の例からも、日本版ISAの入口として投信が選ばれやすいと考えられ、投資経験が既に十分にある個人投資家は非課税口座を積極利用して投信を保有することが予想される。一方で、投資経験の乏しい新しい層の投資を促進することは必ずしも容易ではない。こうした投資未経験層は「ローリスク」型商品を選好される可能性が高く、例えば、ハイリスク・ハイリターンの株式型よりもリスクを抑えた債券型投信などのニーズが高まることが予想される。このほかにも、ISA口座の非課税期間と投信の信託期間、投信に組み入れる債券の償還期限を一致させることで、一定期間保有したときに確実なリターンを見込める「ターゲット・マチュリティ型」投信や、購入タイミングを選ばず株式など伝統的資産との相関性が低い「絶対収益追求型」投信なども日本版ISAに適した商品として支持を集める可能性がある。

日英ISAの概況
日本版ISA 英国版ISA
特徴 配当所得や譲渡所得への課税が一定の条件の下で非課税となる 現在は「預金ISA」と「株式ISA」の2つあり
導入期間 2014年から16年にかけての3年間 1999年の導入当時は10年間だったが、2007年に恒久化された
口座開設 1年に1人1口座、3年間で1人3口座まで 毎年「預金ISA」と「株式ISA」をそれぞれ1人1口座ずつ
有資格者 口座を開設する年の1月1日時点で20歳以上の日本の居住者 「預金ISA」は16歳以上、「株式ISA」は18歳以上の英国の居住者
投資額の上限 口座開設年に100万円が上限。最大3口座で300万円まで投資可能 ISA全体で年間11280ポンド(約134万円)、うち「預金ISA」は5640ポンド(約67万円)が上限。2011年まではそれぞれ年間10680ポンド(約127万円)、5340ポンド(約64万円)が上限
非課税の期間 それぞれの口座で最長10年間 無制限
適用投資対象 上場株式、株式投資信託(ETF、外国籍株を含む) 「預金ISA」は預金、MMFなど。「株式ISA」は株式、債券、投資信託、保険など
途中換金 自由だが、売却分を再利用することはできない
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