グローバル経済・市場分析 JPモルガン・アセット・マネジメント 

概 況


重見吉徳氏

重見吉徳氏

インフレを起点に好循環入り
見えないリスクから見えるリスクへ

グローバル・マーケット・ストラテジスト 重見吉徳氏語る

JPモルガン・アセット・マネジメントは4月26日、メディア・ランチセッションを開催した。3月からグローバル・マーケット・ストラテジストに迎えた重見吉徳氏が、投信販売支援プログラム「Market Insights」の中核として3カ月ごとに更新される冊子「Guide to the Markets」最新号を用いながら、米国や中国をはじめとするグローバル経済や、債券、株式、為替市場を理解する上で欠かせない旬のトピックなどについて、以下のように語った。

「今年のマーケットは、グローバルにリスクを取っていける環境と言えよう。ポイントして、まず(1)『流動性』。セーフティネットの役割であるマネー供給が増えているか。次に、(2)大きな『不確実性』があるか。そして、世界経済の重要なけん引役である(3)『米国経済』がどうなるか。この3点を押さえておけばいい」

「日米欧中央銀行による流動性供給は今後も増えていくだろう。米国のコアPCEデフレーターは現在1.26%。米FOMC(連邦公開市場委員会)見通しの最下限である1.3%をも下回っており、本来なら追加緩和の求められる水準だ。米FRB(連邦準備制度理事会)としても、デフレに陥らないことを確認するため、当面、QE(量的緩和)政策を継続する可能性が高まっている。一方、日銀は毎月、7兆5000億円の国債を買い付けている。米国の850億㌦を下回るとはいえ、日本の名目GDP(国内総生産)が米国の38%であることを踏まえれば、米国に対して2倍のスピードでマネーを供給していることになる。日米よりも遅れてきたECB(欧州中央銀行)にしても、4月の理事会で『今後数週間の状況を注視する』としており、仮に5月でなくても数カ月のうちに追加緩和を打ってくるというのが現時点でのコンセンサスだ(セミナー後の5月2日の理事会で10カ月ぶりの0.25%利下げを実施した)。リファイナンス金利を下げるだけではなく、日銀が実施したように、中小企業に対する融資支援策を打ち出す可能性がある」

「米国“財政の崖”問題や、中国のハードランディング懸念には一応のメドが立ったが、欧州にはリスクが残り、イタリアやキプロスなど、危機の主役が次々と変わってきた。キプロスについては、預金の1割カットなどドラスチックな展開となったが、マーケットへの影響は低下している。キプロスの経済規模が小さいという側面もあるが、それ以上に、『見えないリスク』から『見えるリスク』に変わりつつある点が大きいのではないか。キプロス問題を通じて明らかになったのは、ユーロを守る、崩壊させないということ。ユーロ圏にとって、1つの小テストだった。かつては、ギリシャやスペインがユーロから離脱するのではないかという懸念があり、リーマン・ショック時のように、どういう影響が及ぶのか分からない怖さがあった。こうしたリスクが取り除かれたわけだ。当然ながら、危機に伴って生じた損失負担は経済の停滞を長引かせるが、仮に3-5年マイナス成長が続くとしても、それが見通せるものであれば、リスクとしての“色彩”は後退し、色あせたものとなる」

「米ドルは準備通貨であり、主要な決済通貨なので、他国は外貨準備としてドルを保有したがる。米国は、ドルを供給する役割を負い、経常赤字にならざるを得ない。『トリフィンのジレンマ』などと呼ばれるが、ドルは下がる運命にある。中国の経済規模は大きいが、内需自体は依然、小さいため、世界の需要のけん引役は米国だ。米国経済を見ておくポイントは3つある。『住宅市場』と『家計のバランスシート』と『雇用』だが、いずれも現時点で回復してきている。家計の純資産は米国株の動向を反映する。株高が資産効果を通じて消費拡大を促し、それによって企業業績が改善する、あるいは改善の見通しが立てば、投資が増え、雇用増を導く好循環となる。住宅価格もカギを握る。ほとんどの人が固定金利で住宅ローンを借りているが、FRBのQE政策によって、ローン金利が低く抑えられている。2007、08年の30年物金利は平均6%程度だった。現時点では約3.5%まで下がっており、借り換えによって、毎月の返済額が半分近くに抑制できる。借り換えが一段と進展すれば、消費にも大きな好影響が想定されてこよう」

「冒頭で、グローバル経済を見る上でのポイントとして挙げた『流動性』『不確実性』『米国経済』の3つは、これまで説明した通り、いずれも好転している。『リスクを取っていける環境』としたのはそのためだ」

「新興国株式については、ドルベースでマイナスリターンとなるなど、パフォーマンスが振るわない。中国の1-3月GDPは7.7%成長にとどまり、政府目標の『7.5%』こそ上回ったものの、市場予想や前年実績を下回った。もっとも、従来のように、財政出動など過剰な政策対応で下支えすると、むしろインフレや債務膨張などを招いて、金融危機につながりかねない。目先の成長を追わず、物価安定を重視した、維持可能で無理のない経済運営を指向しているとみることもできる。地力が高い上に、安定と成長のバランスを取るテクニックも身に付けてきた、といったところだろうか。もちろん、いざとなったら政策発動の余地を残しているのは大きい。例えば、競争力強化に向けた法人税引き下げといった選択肢も可能だ。また、新興国のなかには、『第2の中国、ブラジル』候補となる高成長期待国も控えている」

「日本経済に関して言えば、企業業績の上方修正が下方修正を上回ってきている。アベノミクスによる心理好転もあるが、やはり円安が効いている。輸出品の競争力を高めるほか、海外現地法人から外貨で上がってくる収益が増加し、海外資産の含み益も増加する。業績改善か、その見込みがあれば企業は投資を行い、雇用も増えていく。従来の、円高を生かす形での海外企業買収はしづらくなるが、逆に、『さらに円安が進む』(あるいは『もう、かつての円高水準には戻らない』)と思えば、『以前に比べれば割高であっても、今やっておかなければ』という“駆け込み”での海外M&A(企業合併・買収)が活発化する可能性がある。輸入物価の上昇は、既にマクドナルドの値上げや、スターバックスがコーヒーの分量を減らすといった対応にも表れてきている。長らく『デフレの世界』で生きてきて、インフレはなかなか想像しづらいが、これはいわば、毎日少しずつ消費税が上がるようなもので、駆け込み需要を促す(消費を前倒しさせる)効果がある。価値が下がっていく『お金』を手放し、価値の上がっていく『商品』を買うものだ」

「円安は企業業績改善を通じて、投資や雇用を生み出し、家計消費増にもつながる。インフレは前倒しの消費を生む。借り手優位の低金利も投資の追い風となる。インフレを起点にした好循環を、より確かなものにしていくためにも、“3本の矢”が重要だ。2本目の『財政』は、なかなか打ちづらく、成長戦略がカギを握ることになりそうだ」

「そもそも『経済が成長すること』がなぜ大事なのか。例えば、『今日が10で明日も10の所得が想定される(成長しない)家計』があるとしよう。これが、成長戦略の実現によって、明日の所得が20に上がると予見できるようになったら…。経済学では、消費水準を毎日同じにする方が効用が高いとされている(スムージング効果)。所得が『今日10・明日20』になると思えば、消費は『今日15・明日15』となる。結果的に、今日10の生産能力しかないのに、15の需要が出てきて需給ギャップが改善、デフレ脱却が可能になる。明日豊かになると感じることが今日の実体経済を好転させる、ということだ。高度成長期も同様だった。もちろん明日豊かになっていくことも大事だが、それよりも、今日消費したり、今日ローンを組んだり、今日の経済を、うまく回していた。成長戦略に関しては、産業競争力会議において、なお時間はかかると思うが、少しずつ議論が進んでいるようで、期待しておきたい。日銀・黒田東彦総裁が言うように、金融政策は期待の醸成が大事とされるが、成長戦略においても、『期待』は実態経済を動かす重要なキーワードと言える」

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