債券チーム スペシャリスト・インタビュー  世界の機関投資家も注目  投資妙味増すアジア債券  イーストスプリング・インベストメンツ(シンガポール)・リミテッド 債券チームCIO ブン・ペン氏

概 況


ブン・ペン氏

ブン・ペン氏

依然として混沌(こんとん)たる欧米経済状況が続く中、アジアはリターン追求する投資家からの注目を集めている。イーストスプリング・インベストメンツは、アジアを中心に12のマーケットに拠点を有し、アジア運用という強みを持つ運用会社として、今年2月にPCAアセット・マネジメントから現名称へ社名変更した。運用残高180億米ドルと、アジア債券プレーヤーの中で最大級の資金を運用するイーストスプリング・インベストメンツ(シンガポール)・リミテッドの債券チームCIO、ブン・ペン氏は「最善の投資環境を備えるアジア債券市場の認知度はまだ低いが、欧州の年金基金など機関投資家からの注目は高まっている」と語る。同氏にアジア債券市場の現状と投資魅力を聞いた。
■アジア債券市場の現状
アジア債券市場の本格的な立ち上がりは1997年のアジア通貨危機以降。アジア各国政府や企業はそれまで米ドル短期資金調達に依存していたが、通貨危機で多額の資金がアジアから流出。経済は大打撃を被り、大きなリセッションに陥った。この教訓から、アジア各国はアジア独自の債券市場の必要性を痛感。中央銀行が集まって「アジア債券市場育成イニシアチブ」(Asian Bond Markets Initiative<ABMI>)を掲げ、アジア域内の貯蓄をアジアの企業やインフラプロジェクトのファイナンスに振り向ける仕組みを整えてきた。
アジア投資適格級社債のプレミアム
2003年には、アジア国債・社債で構成される米ドル建のファンド「アジア・ボンド・ファンド1(以下、ABF1)」を設定。翌年には現地通貨建の「ABF2」が設定され、アジア債券市場のベンチマークとなっている。アジア債券市場は順調に拡大を続けており、現地通貨建てでは2011年末現在で5兆6710億米㌦規模に、米ドル建てでは4720億米ドル超規模に成長。2005年からの年平均成長率はそれぞれ18%、12%と2ケタ成長となっている。

 

■アジア債券の「魅力」
昨今、欧米経済がマイナスあるいは1%未満の低成長に苦しむ一方で、アジア諸国は若干減速したとはいえ、2012、13年とも6―7%の経済成長が続くと予想されている。欧米諸国の格下げが相次ぐ一方、主要格付会社はアジア国債の格上げを続けており、この傾向は今後も続くとみる。とりわけ注目はインドネシア、フィリピン。インドネシアは、ムーディーズでは既に投資適格級となっている。S&Pにおいても、それぞれに投資適格級を付与するタイミングは非常に間近とみられる。

債務問題に苦しむ欧米諸国とは異なり、アジア諸国の財務状況は健全。こうした点が投資家から選好されている。累積債務の対GDP(国内総生産)比を見ると、主要先進国(G7)に上昇傾向が見られるのに対し、アジアは低下傾向にあり、今後の見通しも良好。

 

●高まる「通貨高」期待
アジア諸国の経常収支は健全。通貨高期待も高まっており、今後は債券投資におけるリターンの押し上げが見込まれている。

現地通貨建て債券に投資する際、投資家が気にするのは、アジア通貨下落による為替差損。しかし、アジア諸国は5兆ドルにも及ぶ潤沢な外貨準備高を有しており、現地通貨に売り圧力が生じても、政府が介入して為替レートを十分に守れる体制にある。
●魅力(1)スプレッド
米国国債とのスプレッドを比較すると、米国BBB格社債(5年物)が150bpsほどで、アジアの投資適格級社債が260bpsほど。ハイイールド社債についても、米国BB格社債(5年物)が360bpsほどで、アジアの同格の社債が600bpsほどと、いずれも大きな差が。同じクラスの格付けの社債に投資する場合、プレミアムについていえばアジアのほうが大きく、より大きなリターンが得られる可能性があるといえる。

アジア対米国債のボラティリティ
●魅力(2)低ボラティリティ
債券投資家にとって重要なことは、リスクを抑えつつ最大限のリターンを得ること。アジア債券の価格は安定的で、かつてはボラティリティが高い局面もあったが、足元では米国金利とも近い動きを見せている。
●機関投資家の注目高まる
分散投資を望む投資家は、アジアの魅力に気づき始めている。世界的なコンサルティング会社のマーサー社が今年1月に行った調査によれば、欧州13カ国の年金基金に対して「今後12カ月において、戦略的アセットアローケションをどのように変更していく予定か」との見込みを聞いたところ、アジアを含むエマージング諸国へのアロケーションを「増やす」と検討している向きが多いことがうかがえる。

アジア債券投資増加傾向にある欧州年金基金
■投資の注意点
アジアの債券は米ドル建、現地通貨建、国債、社債と、すべて含めて非常に魅力的。先進国を上回る利回りが提供できる。にもかかわらず、アジアのほうが財務状況、ファンダメンタルズともに良好。多くの投資家はこの現実に気づかず、米国債など先進国国債を中心に投資を続けている。その理由は「先進国だから」。投資家はアジア債券の現状と特性を理解し、アジア債券投資にも注目していくことが賢明だ。

足元で懸念されるのは、世界経済のさらなるスローダウン。確かにアジア債券市場にとってもマイナス要素だが、2007年のサブプライムローン問題に端を発した経済危機のような、非常事態が再来する可能性は低いとみる。世界の投資家はアジアから一斉に資金を引き上げたものの、落ち着きを取り戻すとともに、アジアの本質的な価値を再確認。資金は間もなくアジアに還流された。この教訓から、過剰反応は繰り返されないと考えている。

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