高クオリティー銘柄の出番 “3本の矢”には課題残す

概 況


日本経済&相場見通しを聞く

アバディーン投信投資顧問 運用部
アシスタント・インベストメント・マネジャー サンディ・リム氏

サンディ・リム氏

サンディ・リム氏

昨年11月14日の野田佳彦前首相解散表明を機にスタートした今次の「アベノミクス相場」。以来、8,000円台で低迷していた日経平均は、あれよあれよの間に1万3,000円にも手の届きそうな急騰相場を演じてきた。ただし、具体的な政策対応が進むのはこれからの話で、現状はムード先行の感も否めない。金融緩和、財政出動、成長戦略の“3本の矢”からなるアベノミクスが実際に日本経済復活につながるのか。今後の相場の行方なども交えて、近年、日本株運用業務強化を進めるアバディーン投信投資顧問のアシスタント・インベストメント・マネジャーのサンディ・リム氏に話を聞いた。

――昨秋来の株価上昇で株式市場を取り巻くムードも大きく変わった。

「11月中旬以降のTOPIXの上昇率は約40%に達し、円相場は対ドルで約20%下落した。当初、11月中旬から12月16日までは政治の流れへの期待感から、12月下旬以降は安倍政権発足を好感、1月中旬から下旬にかけて2%のインフレターゲット設定が評価され、そして2月は補正予算が手掛かりになるなど、いいニュースが流れるたびにマーケットは素直に反応してきた。相次ぐ材料浮上と円安進展が上昇相場を支えた格好だ」

■手放しの円安礼賛は疑問

――「アベノミクス」と呼ばれる安倍政権の政策自体について、どうみているか。市場では円安誘導策への評価が高いが。

「率直に言って、円安が本当に日本経済にとってプラスなのかという点で疑問を抱いている。新聞報道では、これまでの企業の成長鈍化や売上不振の原因を『円高』に求める論調が目立ったが、そもそも輸出競争力が低下したのは円高のためだったのか。元来、日本の製品開発力には中国や韓国とは比較にならないものがった。中・韓と競合する分野に投資するのではなく、例えば米アップルのように、開発力を生かして新しいマーケットを開拓する方向を目指した方が良かったのではないか。企業が戦略を誤ったとまでは言わないが、結果的に、コスト競争に向かってしまった。一方、個別企業ベースでは、海外生産や海外調達の拡大によって円高でも利益の出せるビジネスモデルへの移行が進んでいる。エネルギーや食料品の輸入コスト高となるデメリット面も踏まえれば、日本全体としては、円安を手放しで喜べるような状況ではない」

――相場の反応と実体経済への影響は別、ということか。それでは、アベノミクス“3本の矢”について、それぞれ聞きたい。まずインフラ投資などの財政政策はどうか。

「新たに構築するというよりも維持・補修が中心となるイメージだが、どこまで新たな需要開拓につながる分野に投資できるかが課題となる。人口動態の変化を踏まえれば、高齢化対応の進展が不可欠だ。また、今後の労働力人口減少への対応した社会インフラの整備も急務となる。女性が働きやすくなるようにサポートする政策などをどこまで実践できるか。そして新興国からの移民受け入れなども検討すべき。政府の考え方も一部、漏れ伝わっており、前と比べて改善は感じ取れるが、まだ具体策が見えていないのが現状だろう」

■政府に呼応した企業の動きがカギに

――2%のインフレターゲット策を掲げた、金融政策についてはどうか。

「黒田東彦新総裁の就任によって、日銀が変わることには大きな期待を抱いている。ただ、長いタイムフレームで見た場合、ターゲットとなる『インフレ率2%』が年金受給者にとってどういう意味を持つかなども考慮すべき。経済成長率とのバランスが取れなければならない。なお、2%のインフレ目標を掲げながらも、足元の長期金利が歴史的低水準に低下(長期債価格は上昇)してきた点は非常に興味深い。日銀買い入れに伴う短期的な下支え効果を期待したものである一方、『債券投資家がインフレターゲット策を信じていない』とみることもできる。1990年から直近までの歴史をたどると、日銀が大量の資金をマーケットに供給しながらも、市場に滞留したまま、実態経済に行き渡らなかった経緯がある。バブル崩壊後、企業はバランスシート健全化に向けた借入金返済を優先し、銀行借り入れが一向に伸びなかったためだ。今回、企業が動けるかどうかがカギを握ることになろう。

――その意味では、6月に打ち出される政府の「成長戦略」が注目されることになるのか。

「これも正直なところ、まだよく分からないというのが実情だ。GDP(国内総生産)は、『C(消費支出)』『I(企業の投資)』『G(政府のインフラ投資)』『X-I(輸出-輸入)』などから構成される。『G』とほかの主体が、どれだけ連動できるのか。成長戦略については、いろいろな人のいろいろな発言が伝えられてマーケットが反応しているが、本質的には、政府ができることは環境を整えることまで。いくらインセンティブ(動機付け)を与えても、それによって消費者や企業が動かなければ、経済成長にはつながらない。これは『母と子の関係』にも似ている。たとえお金を払って塾に入れても、子どもに勉強する気がなければ何も変わらない、ということだ」

■今後もポジティブ・イベントラッシュに

――マーケットの熱狂ぶりとは裏腹に、冷静かつ慎重な意見だが、それでは株式市場もこの先、あまり期待できそうにないということか。

「日本経済への見方と株式相場への見方は、また別だ。『日経平均がいくらになる』といった目標水準の試算などは行っていないが、株式市場には今後もポジティブなニュースの顕在化が相次ぐとみられ、基本的には強気の見通しにある」

――「ポジティブなニュース」とは?

「例えば、4月下旬から本格化する決算発表では、次期見通しについて良好な数字が想定される。7月中旬の参院選もマーケットの好感を誘う可能性が高そうだ。経済指標でも、秋口にかけて発表される4―6月期GDPは好数字が望める。年度後半になれば、消費税増税を控えた駆け込み需要が増えてこよう。株式市場も、こうしたイベントに反応することになろうし、政策面などで、まだはっきりしていない部分が具体化してくれば、それもポジティブとなる」

――投資対象については、どう考えるべきか。

「上昇相場の最初の段階では、円安感応度などは高いが、あまりクオリティーの高くない銘柄が買われた。次いで、金融緩和期待から銀行株や不動産株なども大きく買われた。そしてこれからは、本当に強い銘柄、クオリティーの高い銘柄が評価されるのではないか。製品開発力があって、為替など環境面でのフレキシブルな対応力を備えた企業なら、どの分野にキャッシュを投じるかなど経営の選択肢も豊富であり、今後の経済環境下で一段の成長加速も期待される。こうした銘柄の先行きについてワクワクした思いで注視している。

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