ドル円相場の現状・今後の展望  基本的に円安は一服へ

概 況


追加支援材料見当たらず 海外リスク、昨年までと比べ小粒に

三井住友銀行 市場営業推進部 チーフストラテジスト 宇野大介氏に聞く

三井住友銀行 市場営業推進部
チーフストラテジスト 宇野大介氏

三井住友銀行 市場営業推進部
チーフストラテジスト 宇野大介氏に聞く

為替相場に対する関心は今後も変わらない。円安が当面の日本経済を支えるカギになる可能性があるからで、日本の最近の株式相場は為替連動相場の様相だ。為替相場の現状と今後のポイント、見通し、さらに国内金利の見通しなどについて、三井住友銀行市場営業推進部チーフストラテジストの宇野大介氏に聞いた。

■為替相場の現状分析

当面の為替相場は、基本的に円安一服とみている。ドル円の上昇ピッチは想定以上の速さだった。振り返ってみると昨年11月中旬から当時、野党の自民党総裁だった安倍首相が日銀による積極的緩和の方針を打ち出すと、80円程度だったドル円は円高から反転し、安倍政権誕生を経て、大胆な金融緩和の実施と政府の旗振りを受けて、今年2月下旬には94円70銭台まで円安が進んだ。この間の上昇幅は実に15円弱に達している。欧米などのほかの国々は、日本の通貨政策に対して、当初は何ら発言もしなかった。この背景には欧米の10、11月の景気指標、中国の9月以降の景気指標がボトムを付けたという経済環境があり、外部要因としての為替については、彼らは事前に十二分に通貨安を享受していたことがあっての景気復調であり、しばらくは口を出さなかった。それ故のことであろう。とはいえ、途中、1月中旬にロシアや米ビッグ3から円安けん制発言が伝えられたが、ドル円は反応せず90円を超え、一時94円台まで上昇した。さすがに諸外国からは日本の通貨政策に対する批判も表面化し始め、こうした中でG7、G20を迎えた。日本の市場参加者の、その声明文の読み方は自国に都合の良い解釈がなされていたが、結局は実際にG20に参加した麻生財務相の、帰国後の発言が最も重要なポイントだった。出席者の会議でのやり取りのニュアンスが分かるからで、麻生財務相の「外債購入する気はない」「為替相場にコメントしない」との発言から日本サイドがこれ以上、積極的な円安指向を取りにくい、と受け止められる形に落ち着いたようである。

■ドル円の当面の見通し

短期的には日銀新総裁の人事問題もあったが、円売り材料としての追加オプションはほぼ出尽くしているとみている。政府、自民党による円安誘導は一服し、円安の追加支援材料も見当たらない。今後3カ月の期間で見た場合、ドル円はピークからまずは5円程度の調整があるのではないか。80円から94円台までの上げ幅の3分の1押しの水準に当たる。3分の2押しの85円程度までの調整の可能性は7月の参院選後であると予想している。イギリスでは英中銀による量的緩和拡大の可能性が浮上しているほか、ECB(欧州中銀)もドラギ総裁が利下げをにおわす発言をしている。イタリアの選挙結果が欧州債務問題の再燃をイメージさせていることも、ECBによる追加の対応を市場は常に頭の片隅に入れることになる。世界経済の復調の動きが変調をきたし、潮目が変われば、日本に代わってほかの国々が通貨安指向を見せるかもしれない。

■海外リスク

欧州には債務削減に否定的な左翼勢力が選挙に勝利し台頭するという、債務問題と直結する政治リスクが残っているが、今年のユーロ売り材料としては、昨年までと比べれば小粒といえる。イタリア総選挙が終わったため、今後は秋のドイツ総選挙までに大きな問題を提起する材料は乏しい。米国も同様で、取りあえず「財政の崖」が回避されたことで、所得税減税の廃止による個人消費への影響は残っているものの、崖の半分の問題である歳出の自動削減の先延ばし問題だけが残されており、マーケットに与えるインパクトはやはり半分程度しかないとみている。ドル、ユーロともに、当面の売り材料としてこれまでの焼き直しの域を出ておらず、売り圧力としてそう大きなものにならないだろう。ドル円については、この3カ月で昨年、一昨年の年間変動幅を凌駕(りょうが)するほど大きく動いてしまった。当面はいったん調整に入るとみているが、その場合でも、円の最高値を更新するといったような大きな値動きにはならないとみている。

■ドル円のサイクルからも

これまでのドル円のサイクル、リズムを当てはめると今年は円高の年ではない。ドル円には2つのサイクルがある。1つ目は4年ごとの米大統領選に合わせたサイクル。中間選挙の年である大統領就任後の2年目、そして大統領選の前年の大統領就任後3年目にドル安政策が取られやすい。選挙の大票田である製造業にとって都合の良いドル安にすることで、選挙戦を有利にしようという計算が働くからである。その意味では、就任後1年目と本選挙開催の4年目は米政権には特にドル安指向がないことになる。今年はドル安指向のない1年目に当たる。2つ目は円高の5年サイクルがある。5年ごとに円高が到来するというサイクルで、これまでだと、1995年、2000年、2005年が円高、本来ならば次は2010年となるが、1年ズレて2011年(10月31日、円は対ドルで75円32銭の史上最高値を記録)に円高となったため、次の円高のタイミングは2016年となる。いずれにせよ、米大統領選サイクル説、5年サイクル説からは、今年2013年は円高の年ではないことがいえる。

■7月参院選に向けて

アベノミクスの1本目の矢である積極緩和を打ち出すことで、円安、それを受けた株高が取りあえず実現し、株高をもたらす第1弾ロケットとしての円安(為替)の役割は終えたのではないか。追加緩和策が円売り材料として働く可能性は、ほぼ出尽くしたとみている。安倍政権は、7月の参院選挙前に株高のピークを持ってくるように、2本目の矢である機動的な財政政策の実質的な稼働を背景として、この3-6月では小粒ではあっても、新たな株高支援策を打ち出すのであろう。そして最後の取りが6月に発表予定とされる3本目の矢の成長戦略であろう。

■注意すべき変動要因

為替相場を考える上で、今後のリスク要因になるは、先ほど指摘したように昨年までのような大きなものはないが、あえて注意するものとしては先に挙げた秋のドイツ総選挙と、中国景気の動向と見ている。ドイツの総選挙では、結果次第でメルケル政権のユーロエリア、ならびに財政問題に対する政策スタンスに変更を迫る政党が第一党となる可能性がある。中国経済は昨年9月ごろから回復傾向にあるが、不動産価格上昇の反動で不動産バブルが弾けるリスク、特に当局が民間格差をコントロールできなくなるリスクが懸念される。このほか、米国経済にしてもなお不透明感は残る。米景気指標は、秋から年明け、そして春先までは強い。しかし5月以降、それに陰りが見えて秋まで減速リスクが高まる傾向があり、これをこの3年間継続しているが、今年も同じ景気のパターンになる可能性がある。けん引期待の住宅分野も上向きながら、大きな落ち込みの後、ここにきて多少戻っているだけで、絶対水準はまだかなり低い。また、米「財政の崖」問題も取りあえず回避されたが、問題点を顕在化させないような対応がなされているだけで、根本解決されたわけではない。この点は欧州債務問題も同じことがいえる。ファイナンスの問題解決法と、財政の根本的な問題の処方せんは異なるからだ。

■国内金利の展望

今年の長期金利(10年国債利回り)は0.6-1.0%のレンジで推移すると予想している。参院選にかけて金利が強含む場面があるとみている。株高、景気回復への地ならしがなされるためだが、といっても金利上昇の程度も知れている。既に補正予算、2013年度予算の策定における国債発行計画を見ての通りで、需給の乱れが生じないように財務省は国債発行の在り様をコントロールしている。政府としては、金融政策において、追加緩和期待がついえないように、これはこれでコントロールを続けよう。株式相場が日経平均で8500円から1万1600円台まで上昇したことを踏まえると、円の長期金利の株高に対する感応度は低い。最近、米国長期金利が2%台まで上昇する局面でも、日本の長期金利の反応が鈍いことを考え合わせると、一応、ピークで1.0%と予想しているものの、1.0%まで至らない可能性がある。それは国債管理政策のたまものと表現できよう。

■インフレ目標2%設定に反応鈍い債券

インフレ目標が2%に引き上げられれば、長期金利は上昇するのが一般的だが、当面予想される日銀の積極緩和期待にのみ反応して低下している。これは、債券市場では、株式市場や為替市場とは異なる見方を持っているためで、債券高の背景には、消費税引き上げの影響を除いた上でのインフレ目標2%の達成は難しいとの判断があるとみられる。日本はバブル期ですら物価上昇率が低かったわけで、このデフレ期から、たとえいきなり政策総動員で流動性を高めたところで、信用創造という形で貨幣の乗数効果が短期間で上昇する、つまり物価が上がっていくという絵は描きづらく、極めて現実的なモノの理解をしているがためのプライシングなのだと考える。

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