比類なき価格上昇トレンド続く「金」 新興国の高需要、機関投資家の傾倒が続く

概 況


ワールド ゴールド カウンシル 「第1回ゴールド・アカデミー」開催

近年、欧米の機関投資家の間で金投資が注目を集めているという。金の国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は11月29日、機関投資家を対象に「第1回ゴールド・アカデミー」を開催。金の需給動向と、ポートフォリオにおける位置付けや役割について、国内外の専門家が講演を行った。今回はWGCマネージング・ディレクターのマーカス・グラブ氏、リサーチ・アナリストの津金眞理子氏の講演内容を抜粋して紹介する。

再評価進む通貨としての金
WGC マネージング・ディレクター マーカス・グラブ氏

各国中央銀行の動きから

中央銀行は2009年以降、金の供給側から購入側に転じている。それまで年間400-600トンを市場に放出していたのだが、2010年はネットで年間約100トンの購入に。11年、12年も需要超が続いている。

この購買行動のほとんどが新興国の中央銀行によるものだが、そもそも、各国の中央銀行はなぜ金を保有するのか? 金投資には3つの主要な論点があり、近年の金融不安の中でこれらがさらに浮き彫りになったことが要因だとみる。

(1)流動性
金は天然資源の中で最も流動性が高い。ロンドン店頭市場における日次売買高は2400億米ドルにも達する。

(2)分散化
中央銀行は非常に保守的なポートフォリオを持ち、株式や不動産などとアセットクラスを自由に選択できない。長期的には米ドルと負の相関を持つなど、金は分散効果の面から見て大いに魅力的。リターンを無視しても投資したいと思える対象。

(3)基本資産という考え方
これまで非常時の蓄えとして、しばしば金の価値が高まった。金融システムの1つの砦(とりで)になり得る。

新興国「金買い増し」の背景

地上すべての金の合計は17万1300トン、8.7兆米ドル相当とされる。うち宝飾利用が8万4300トンと約半数を占め、残りは中央銀行による保有が2万9500トン、民間投資3万3000トンとなっている。

先進国の中央銀行が既存の金の保有を続ける一方で、新興国は積極的に買い増している。結果、新興国では外貨準備高に占める金の割合が高まっており、8月時点では先進国の1ケタ台に対して、新興国は2割超に。新興国では輸出増に伴って過去10年、20年の間に外貨準備が驚くほどの速度で拡大。単にウエートを守るという機械的な操作のためにも金を買わざるを得ない状況にあった。

12年9月現在、金の保有量は米国が8100トンで最大。3500トンのドイツ、2000トン強のイタリア、フランスと続く。ユーロ17カ国で約1万トン保有しているが、近年、先進国の保有量はほぼ横ばい状態が続いている。

一方で中国は1000トン強と5位に躍進。07年の600トンから急増するなど、新興国では07年以降買い増し傾向にあり、今後も続くだろう。

翻って日本。為替介入により外貨準備高は加速度的に増加し、足元ではおよそ1.2兆米ドルにも達する。しかしながら金保有高は765.2トン(386億米ドル)と、外貨準備に占める割合はわずか3.4%にすぎず、先進国の中でも圧倒的に低い。

ポートフォリオにおける金の役割

ロンドン金とNASDAQ指数の推移
01年12月から11年12月までの10年間、金のリターンは約20%と、ほとんどの資産クラスを上回るパフォーマンスを見せている。

しかしながら金の役割はこれだけにとどまらない。高額商品としての長い歴史を持つため市場には厚みと流動性があり、天然資源でありながらボラティリティが低い。1987年から2011年12月までのボラティリティは14-18%ほどにとどまっている。現在は現物だけでなくETF(上場投資信託)といったカタチでも容易に持ち分調整が可能だ。長期にわたってほとんどの資産との低相関が確認されており、ヘッジ手段としても有効。

ヘッジ手段としての有効性

WGCは英シンクタンクのオックスフォード・エコノミックス社にインフレ、デフレ時に金がもたらすリターンの分析を依頼。同社レポート「The impact of inflation and deflation on the case for gold」によれば、金のリターンはいずれの環境下でもそのほかの資産クラスを上回るという結果が得られた。

デフレ時には米ドルが上昇するが、株式、不動産、コモディティなどそのほかの資産は深刻なデフレの影響を受けるため、金は相対的に恩恵を被る可能性がある。一方、インフレ時には米ドルが下落、実質金利はマイナスに。金価格は高騰する。1970年から2011年までの実例を見ても、2%以下の低インフレでは4%程度のリターン、2-5%の中インフレでは5%ほど、5%超の高インフレ下では16%超のリターンが試算された。

テールリスクへの優位性

特有の性質を持つ金の値動きは一般的な商品とは異なり、とりわけテールイベント発生時に負の相関を持つことが確認されている。例えば日本で行ったあるリサーチ結果は、たとえ金のリターンがゼロだとしても、ポートフォリオに組み込む「意味がある」という結果を示した。

金はここ10年間上昇相場が続き、リターンに貢献しているのは当然だろう。しかしながら「リスク低減にも貢献する」という。金を5%保有することで、例えば1987年のブラックマンデー時には100ベーシス~、2011年の米国債デフォルト危機時には150ベーシス~ほどのパフォーマンスの改善が見られた。

金の高騰は「バブル」か?

現在の高騰を懸念する向きもある。しかし、1970-80年代の銀バブル、1990-2000年の米国新興株市場など、ほかの資産がかつて巻き起こしたバブルと比べれば、金がこれらに匹敵しないことは明らかだ。金価格はここ10年ほどかけてじっくりと値を上げている。

高騰続く金は、世界的にも大変“混み合っている”資産ではあるが、グローバル資産全体の143兆米ドルに占める割合はわずか1%ほどにすぎず、投資家が目を向ける余裕はまだまだ大きい。アジアなど成長著しい新興国における宝飾需要、長引く低金利に対応しようとする投資家など、金の需要は確実に高まっている。最近ではETFが登場するなど需要の多角化が進んでいることも、ほかの資産には見られない特徴だ。

ちなみに投資目的での需要は1980年代のほうが高く、5-6%ほどあったとみられ、ヒストリカルに見ても現在の1%は低水準。足元では米大手運用会社のピムコやポールソンなど、今まで金に振り向かなかった大手機関投資家たちも金投資を始めており、また、金投資のセオリーからすると、いったん着手すればその保有量は高まる傾向が見られることから、今後も金取引量は順調な積み上がりが期待される。

日本の機関投資家にとっての金投資~今、改めてその意味を考える~
WGC リサーチ・アナリスト 津金眞理子氏

これまで低金利かつ株式低迷下にあった日本では、機関投資家の運用難が続いていた。そこでWGCは、日本株との相関がほとんどなく、日本債券とはマイナスの相関が認められる金が、彼らのポートフォリオに果たす役割を検証した。

金の最適比率は2-10%

主要資産の過去10年間の推移を見ると、円ベースでは日本株の価値が半減したのに対して外国株はフラット、金は4.5倍に。米ドルベースで見ると金は6倍近くに拡大している。金は年度別に見ると2002年と08年にマイナスに転じるなど、常にほかの資産を圧倒しているわけではない。ただ、ほかと比べてボラティリティが低いという特徴が確認できる。

金の組み入れ効果を見るため、WGCでは金の期待リターンを(1)短期金利と同等(2)短期金利にプレミアムを付与(3)実質ベースでゼロ(期待インフレ率と同等)と、最も保守的な考え方を採用してシミュレーションを行った。結果、分散効果を最大化する金の最適保有比率は2-10%で、伝統的資産のみを対象とした場合には2.9-9.4%、代替資産も含めた場合には2.1-6.8%との結論を得た。

今後起こり得るリスクについても検証。(1)1%の国内金利上昇で日本国債が7%ほど下落するも、日本株は6%強上昇する『良い金利上昇』、(2)債務問題懸念など『悪い金利上昇』で日本株が50%下落、(3)日米欧株が50%下落するグローバルショック──の3シナリオを想定。3カ月間では、基本ポートフォリオと比較して、シナリオ(1)で10ベーシスポイント、(2)50ベーシスポイント、(3)80ベーシスポイントの損失抑制効果が認められた。

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