HSBCグローバル経済セミナー「米国のゼロ金利離脱とグローバル経済・金融動向」

概 況


城田修司氏

城田修司氏

HSBCグループ HSBC証券会社
債券営業本部 マクロ経済戦略部長 城田修司氏

2015年、FRB(米連邦準備制度理事会)は事実上のゼロ金利政策を解除して利上げに踏み切る見通し。一方で、ECB(欧州中央銀行)と日銀は景気回復やデフレ脱却を目指して緩和スタンスを強化する方向にある。このような主要3カ国・地域(G3)の政策の相違はグローバル金融市場を共振させ、新興市場経済を大きく揺るがす恐れも。HSBCは昨年12月22日に「グローバル経済セミナー」を開催して、15年の見通しを語った。

米国/9月ゼロ金利解除を予想

HSBCではディスインフレを理由に、ゼロ金利解除の時期を15年6月との予想から9月に変更した。年央とする市場予想よりも若干遅れるとみる。

図1

図1

これまで市場はゼロ金利解除のタイミングを図るべく「イエレン・ダッシュボード」と呼ばれる9つの雇用関連指数の動向に注目したが、FRBは昨年5月に労働市場情勢指数(LMCI、図1)を開発。失業率や労働参加率など19の構成要素から成る指数の算出を開始している。LMCIは足元で改善傾向にあるものの、FRBが金融引き締めに転じた1994年や2004年のプラス10ポイント程度と比べるとまだ弱く、引き締め転換は時期尚早とみる。

FRBが「雇用の質」に注目しているのは知られるところ。LMCI構成要素の1つ「経済的理由のパートタイム比率」のうち、パートタイムで働く理由を「パートタイムしか見つけることができなかった」と回答した人の割合は高水準での横ばいが続くが、今後はこの指標の改善時期とその度合が注目される。

“消極的”戦略で低金利継続

FOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーは今年ハト派が増えるため、出口戦略は緩やかに進められる見通し。HSBCでは9月にゼロ金利解除後、1年に1%(四半期ごとに0.25%)程度のペースでの利上げを継続するとみている。そして16年には償還分の債券再投資を停止。その後は積極的に債券を売却するのではなく、国債の大量償還でバランスシートを徐々に縮小させるといった消極的な出口戦略を想定する。

10年国債利回りはこれまで「潜在成長率」と「期待インフレ率」の合計が上方レジスタンスとして機能しており、20年までの上限は4,5%程度と想定される。

欧州/量的金融緩和の効果は薄い

図2

図2

今回のデフレ懸念は深刻だ。08-09年の低インフレ時は消費者物価上昇率がマイナスに沈んだものの、将来の物価見通しを基に取引されるインフレスワップの5円先物金利は3-4%台を概ね維持。ところが今回はインフレスワップが2%台を割り込んで過去最低水準にある(図2)。

HSBCでは欧州中央銀行が国債買い入れなどの量的金融緩和の導入を決定して、マイナス金利政策を停止するとみている(※)。しかしながら効果は次の理由から、米国のそれと比較して小規模なものになると考える。

(1)ドイツなど既に長期金利は低水準
(2)ハイイールド債やABS(資産担保証券)の市場が小さく、ポートフォリオのリバランス効果は限定的
(3)家計の株式保有比率が低く資産効果は限定的

(※セミナーの開催された14年12月22日時点。15年1月22日の政策決定会合で量的緩和導入が決定された)

日本/4月に追加緩和の可能性

図3

図3

黒田日銀は人々の期待に働きかけることで自己実現的に2%の物価上昇を引き起こすことを目指すが、年内の達成は困難とみる。昨夏には期待インフレ率(BFI)が急落。10月の追加緩和で一時上昇したが、足元では再び急落している(図3)。

足元の資源価格下落で、長期低迷の主要因だった交易条件は改善傾向にあった。にもかかわらず日銀はこれを無視。昨年10月に追加緩和を実施したが、これはディマンドプル型の「良性インフレ」の可能性を犠牲にして、コストプッシュ型の「悪性インフレ」を志向したと言わざるを得ない。実体経済の成長を伴わないコストプッシュ型ではインフレ押し上げ効果に限界があり、HSBCでは4月の追加緩和実施を想定している。

ドル円「120円は通過点」

市場では07年6月に付けた1ドル124円が意識されているが、15年末には125―130円の可能性も。ドル円は過去のオーバーシュート局面で、両資産の期待収益率から均衡点を導き出す「ポートフォリオ・バランス・アプローチ」の観点から算出した適正値(14年7―9月期105.71円)プラス20―25円を上値ターゲットとしている。

新興国/選別投資が必須

国際金融協会(IIF)は米ゼロ金利解除など金融市場の緊張が高まると悪影響を受けやすい国にブラジル、インドネシア、ロシア、南アフリカ、トルコを挙げた。対照的にインド、メキシコ、チリについてはポジティブな見方を示した。ちなみにNY連銀のダドリー総裁は14年11月、「投資家は新興国の脆弱(ぜいじゃく)性に着目しようが、次の条件をクリアしていれば動揺は抑えられる」と発言している。

(1)為替相場における固定相場制の撤廃/ポジティブ:自由変動相場制を敷くメキシコ
(2)低水準の対外債務/ネガティブ:対外純資産・負債が対GDP(国内総生産)比で大きくマイナス圏にあるトルコなど
(3)外貨準備の蓄積/ネガティブ:外貨準備の輸入カバー率が低いアルゼンチン、南アフリカ、トルコなど
(4)明確で分かりやすい金融政策の枠組み、およびインフレ抑制/ネガティブ:消費者物価上昇率が高いアルゼンチン、トルコなど
(5)財政規律の維持/ネガティブ:政府債務残高が多いインドなど
(6)厚い自己資本を持つ銀行システム/ネガティブ:銀行の自己資本比率が低い中国、インドなど

中国/成長鈍化も「新常態」

短期的にはネガティブ。習近平総書記が進める反腐敗運動や倹約令が重しに。個人消費が抑制されて、経済の減速傾向が強まっている。

習総書記が提起した「新常態(ニューノーマル)」を目指し、かつての高速成長から中高速成長へとソフトランディングを試みる。3月の全人代で決定される15年の成長率目標を、市場は7%前後への引き下げと予想しているが、HSBCでは15年7.3%、16年7.4%を見込む。

インド/「勝ち組」の可能性

14年5月に発足したモディ政権への期待から景気は回復基調に。実質GDP成長率は14年7-9月期の5.3%から15年は6%台に高まり、新興国平均を凌ぐ高成長が見込まれる。HSBCでは15年6.2%、17年7%を予想している。

資源価格下落で卸売物価の伸びが鈍化するなど、懸念されていたインフレは沈静。インド準備銀行(RBI)は消費者物価指数(CPI)のターゲットを15年8%、16年6%、17年4%に設定するが、HSBCでは達成容易とみる。今年2月末に発表予定の15年度予算案で金融引き締めスタンスの継続が確認されれば、RBIは追加利下げを実施するとHSBCでは予想。

ロシア/原油安で大打撃

原油安に加えて欧米による経済措置など問題多数。HSBCは実質GDP成長率の見通しを15年はマイナス3%、16年もマイナス1.5%としている。

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