新興国経済・投資2015年展望 HSBC投信 代表取締役社長 松田宇充氏

概 況


松田宇充氏

松田宇充氏

米国が量的緩和縮小に転じて以降、新興国投資のリターンは国別格差が拡大している。2015年の新興国における相場展望と投資戦略を、HSBC投信の松田宇充社長に聞いた。

2014年総括/「受難」続いた新興国

2013年の終盤に「フラジャイル5(脆弱な5カ国の通貨)」との言葉が登場した。同年12月18日、FRB(米連邦準備制度理事会)が量的金融緩和の縮小を発表。これに伴って、先進国から投資された資金が引き揚げられるとの懸念が生じた。ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカの5カ国をはじめとする新興国の経済については14年前半も引き続き悲観論が台頭した。

ところが実際には新興国からの大きな資金流出は確認されず、マクロ経済状況が改善して改革期待の高まるインドや、上海・香港市場の相互乗り入れや利下げが好感された中国は年初比5―7割程度(円ベース)のリターンを示した。一方でブラジルのように予想外の大統領再選で経済改革が停滞するとの見方が膨らみ、年初来安値圏に沈み年初水準に戻ってしまった市場も。14年は投資先選別の重要性がより際立った1年と言える。

2015年展望と投資戦略/「資源持たざる国」に注目

15年の株式市場を見通す上で注目されるのが「ドル高」「原油安」だ。日本と欧州が金融緩和路線を維持するのに対して、米国は利上げ局面に転じることや実体経済から見ても、ドル独歩高は当面続くとみる。主要通貨とドルの関係性をみる「ドルインデックス」は過去30年平均の中央値を下回っており、一段の上昇余地が見て取れる。HSBCでは15年末のドル円レートを128円と想定するが、130円台を示唆する向きもある。

ドルへの一極集中は資源価格の下落にも拍車をかける。資源の多くはドル建てで取引されており、ドル高が進めば割高感が出て売られるなど、両者は逆相関性が強い。そして資源価格の下落は、エネルギーなど資源輸出に依存する国の経済成長を押し下げる可能性がある。

米国の金利上昇が与える影響

米国が利上げに転じても欧州、日本の緩和策は維持される見込み。全世界的に見てもマネー供給量は依然として高水準で、新興国に与える影響は軽微なハズ。にもかかわらず昨年同様、15年も資金が引き揚げられるという憶測から、新興国の資産が売られる局面がありそうだ。

とはいえ米国ただ1国だけでは世界のマネーを吸収できず、やはり、新興国にも目を向けておくべきだろう。ちなみに米10年債金利は約2%で、これをベースにするとS&PやNYダウなど株価指数は理論価値から6割程度も高く、投資しづらい水準にある。

「高金利通貨」に投資妙味あり

インド、インドネシア、メキシコ、ブラジルなど実体経済が極端には悪くない高金利国の通貨や債券が、極めて魅力的な投資対象となる可能性がある。将来のインフレ見通しの低下などを背景に、新興国の金利はこの先低下する方向に動く可能性が高い。一方で欧州や日本は金融緩和スタンスを強める展開が見込まれることから、金利の低い国の通貨を売り、高い国の通貨を買うことで金利差を得る「キャリートレード」の盛り上がりが想定される。

国別の状況

【ポジティブ】

インドネシア:補助金削減で成長後押し

14年もそこそこ健闘したが、15年は圧倒的に面白くなりそうだ。政府は本年1月、財政赤字の主な要因となっているガソリン補助金を削減。財政健全化を目指しレギュラーガソリンや軽油の価格を3割超引き上げているが、原油安もありインフレは落ち着きそうだ。今後はインフラ整備などへの予算配分が増加して、経済成長を後押しすることが期待される。

インド:財政負担軽減で政策余地

燃料にとどまらず食糧などにまでおよぶ補助金がインドネシア同様、財政を圧迫。足元の資源価格の下落で負担が軽くなり、その分がインフラ投資に振り向けられるなど、政策余地が生じる可能性がある。高成長が期待される国の代表格。

メキシコ:各種改革で高成長局面へ

HSBCでは14年の成長を期待したが、改革のスピードが思ったよりも鈍い。しかしながら、米国の景気拡大の恩恵を受けつつ、世界屈指の高成長が期待できる市場との見方に現在も変わりはない。

昨年8月、政府はそれまで国家が独占していた石油・ガス産業を、外資を含む民間企業へ解放する「エネルギー改革法」を公布。加えて、18年までの5年間で約60兆円を支出するインフラ投資を計画しており、今後は経済活動のさらなる活発化が期待される。

ちなみにメキシコは世界有数の産油国だが、精製能力が国内消費に追いつかず、石油製品の純輸入国でもある。米国に隣接するとの地理的条件から日本の自動車メーカーなど多くの製造業を引き付けるため消費量も多く、昨今の資源価格の下落はどちらかといえばコスト低減といったプラスの効果をもたらすと考える。

【ネガティブ】

ロシア:政情不安+原油安で迷走

連邦政府の国家財政の50%超をエネルギーの輸出が占めるため、資源価格の低迷によるダメージは相当に大きい。外貨準備が4000億ドル超と潤沢で近々のデフォルトリスクは想定されないものの、ウクライナ問題と、これに端を発した欧米による経済制裁などリスクも抱える。昨年12月には中央銀行が6.5%もの大幅な緊急利上げに踏み切ったものの一段の通貨下落が進むなど、プーチン政権は依然迷走中。一方、為替・株価が既に大きく下落しており、バーゲンハントする投資家の動きも散見される。原油価格に落ち着きの兆しがでれば投資しておきたい。

ブラジル:経済停滞も下値は限定的?

14年10月のルセフ大統領再選は改革推進派への政権交代を志向した投資家を大いに落胆させ、ブラジル株式市場は暴落を見た。ただ、一大イベントを終えた市場には今後、政府の新施策などポジティブサプライズの出現も期待される。下方向への動きが限定的な今のうちにポジションを作っておくのもひとつの選択肢。

【そのほか】

中国:15年も堅調成長を維持

日本人投資家の間では外交問題から話題にのぼりにくい市場だが、ムードは決して悪くない。人口構成が変わり、成長率はかつての8-10%から5-7%程度に引き下げられることが想定されるが、これはシナリオ通り。

不動産バブルの崩壊が懸念されているが問題はない。確かに不動産価格は足元でマイナスに転じたが、日本のバブル初期のようなデフレスパイラルは見られない。中国は今後も都市化を進めなければならず、都市化率を現在の52%から70-80%にまで高めるため、投資は継続されるだろう。シャドーバンキングについても問題視していない。HSBCの調査では、国と地方債務の規模は最大でもGDP(国内総生産)の60-70%程度にとどまり、経済全体で充分に吸収可能。

戻る