Fedと米金融経済の現状・見通し、そして日本への期待 ルーミス・セイレス副会長ダン・ファス氏語る

概 況


米利上げの最初の段階は、来年秋の遅くあるいは再来年春の後半へ

ダン・ファス氏

ダン・ファス氏

アメリカの大手資産運用会社のルーミス・セイレスの副会長で同社旗艦ファンドである「ルーミス・セイレス・ボンド・ファンド」をはじめ複数の債券ポートフォリオの運用を担当しているポートフォリオマネジャーであるダン・ファス氏がこのほど来日した。債券運用では、これまでモーニングスター社の“債券マネジャー・オブ・ザ・イヤー”など数々の受賞に輝く、最も知名度が高い人物だ。同氏が語ったさまざまなテーマの中からアメリカのFed(連邦準備制度理事会=FRB・連邦公開市場委員会=FOMC・連邦準備銀行=FRBの総称)や金融政策、経済などの見方、さらに日本へ期待などに関する部分について紹介する。

■Fedの役割と現実

アメリカのFedは法案で作られたものだ。その下にはいくつかの地方の連銀があって、その上に連邦準備制度理事会があるわけだが、Fedの使命としては、1つ目は銀行のバンキングシステムを安定させること、特に地域間の資金の流れを円滑にするということ。2つ目はインフレのコントロール。3つ目は、特に最近そうだが雇用を促進させること。この3つ目の雇用促進が最も政治的にセンシティブだ。国内の観点からみると、現在のアメリカの中央銀行は与えられた使命―特に雇用のサポートと、インフレの抑制、具体的にはCPI(消費者物価指数)をターゲット以下に下げるということにおいて、与えられている役割以上のことをしているのではないかと考えている。インフレについてはアクションを起こさなくてはいけないような、心配しなくてはいけないようなレベルにはない。雇用についても、アメリカの雇用は成長していて、月に22万人の雇用が創出されている。これは新規の労働市場への参入を超えているものだ。

Fedに対して、特に中小の銀行から政治的に短期金利を引き上げるように圧力がかかっている。中小の貯蓄銀行は、金利が払われないとビジネスが難しいので、引き上げの圧力がかかっているわけだ。また、雇用については、雇用率や失業率が初期のターゲットを超えていることで、Fedは雇用のターゲットをどんどん設定し直している。この設定変更より何か理由があるのではないかと考え始めている市場関係者もいる。

金利に関するFedのアクションはもちろん世界中に影響を与えるが、それによって地政学的な状況や環境も変わってくる。それが起こるとほかに何も要件が変わらなくとも、環境の変化によって北米に資金が流れていく。それはアメリカ、カナダをターゲットとして、メキシコにも流れていく。メキシコの場合には間接ではなく直接投資という形で流れていくわけだ。そうした資金の流れ、ファンドの流れは、アメリカのドルをターゲットにして、アメリカの金融機関がターゲットになる。不安が起こると資金はその不安定さを理由にその地域を離れてしまう。

■Fedの最近の対応と当面の見通し

Fedは、ビジネスサイクルに通常の政策がなかなか打てなくなってきている。それは国際的な変化や地政学的な変化、あるいはヨーロッパの経済が非常にスローでフラットであること、アジアの経済も非常にスローになっていることなどの理由で通常の対応ができなくなっているわけだ。こうした状況で、利上げの最初の段階は、来年秋の遅くあるいは再来年の春の後半に起こるかもしれない。ただし、その上げは決して十分な上げではない。長期金利が50ベーシスポイント以上上がるようであれば、Fedは政策を転換するだろう。

総合的に考えると世界の市場のベースレートは、まことにゆっくりと上がっていくとみている。世界の主要国の経済のスローダウンがさらに進んでいけば、もっと上がり方がスローになるだろう。これはまだ問題の一部で簡単な状況であると思う。

■米国防費の先行きに不透明感

もう1つは、政治的により難しく、より不確実なことだと思うが、このように世界は急速に変化しているので、アメリカの国防費はどうなるのかという問題がある。中東で起こっている出来事、特に悲惨な出来事を見ていると、アメリカの国防費比率が全体のGDP(国内総生産)の中で引き下げられ続けているが、これが良いことなのかという疑問をもたらしてしまう。私もそうだし、一部の人でも疑問がわいてきている。基本的に国防費を削減することが素晴らしかった環境と、現在では状況が変わってきているのではないかと思っている。特に現在のほかの地域の中でアメリカの軍事力を必要としている地域が出てきていることを踏まえると国防費の削減が良いことなのかを考えさせられてしまう。

今年のアメリカの陸軍はトータルでの雇用者数を12%ぐらい減らしている。これは昨年も今年も将来も続くパターンだった。また軍で使うさまざまな機器や機材も減らしている。海軍も配備や、新しい機材を減らしている。問題は現在の環境に照らし合わせて、国防費削減が現実的なことなのか、あるいは継続していいのかにある。

国防費の削減が現実的でないとすれば、アメリカの予算の赤字は底を打って、拡大するのではないかとの予測もある。アメリカの予算赤字は地方市場でファイナンスされている。トレジャリーボンド(アメリカ長期国債)を圧迫する。さらに、短期金利が上がっていけば、利払いは増えていく。

■Fedが抱える3つの問題

アメリカのFedは3つの問題を抱えていると思う。1つ目は彼らが国内で持っているマンデート(委任された権限)、それを海外の状況がゆえに超えたようなことをしなくてはならないこと。超えたようなことをしてしまうと政治的に難しい状況に陥ってしまう。2つ目は金利を上げれば、ほかの条件が変わらなければ雇用の伸びが鈍化してしまうので、それで批判を受けてしまうかもしれないこと。3つ目は雇用が伸びていることは良いが、労働市場がタイトになってきているので、若干遅れてインフレ指標も上がってくると、マンデートの中で引き締めができるわけだ。1つはマンデートの中でやること、もう1つはマンデートなしのこともあるが、皆さん(記者)が連銀総裁に会ったならぜひ“ノー”と言っていただきたい。総裁が今やることは、バルクでたくさんの頭痛薬を買うことだと思う。

■日本の労働市場に構造的な変化を期待

日銀は既にインフレ的でない、インフレを起こさないようなアクションをうっている。それでサポートしようとしているが、それでも問題はまだ起きている。日本の政府も経済のスローダウンと対応しようとしている。しかし、日本では人口が減少している。どうやって少ない人口でもっと生産を増やしていけるのか。そのためには全体の生産性を上げていかなくてはならない。1つの方法として、より多くの人を労働市場の中に取り込んでいかなくてはならない。ここに3本目の矢というものが生きてくると思う。3本目の矢についての私の理解は、労働力人口を増やして、全体の生産性が上がった後で打つべき矢だと判断している。政策の目標としては素晴らしいが、実行することは大変だろう。私のようなものも含めて、やはりもっと高年齢の人に労働市場に戻ってきてもらいたい。そして生産性を上げていかなければならない。より多くの人が実際に給与を受け取って、そこから源泉徴収をされる形の働き方をしなければならないと考える。サーベイでは、平均の定年の年齢が上がっているようだ。日本では65歳以上の人が多い状況にある。とにかく労働市場に対して構造的な変化を起こすことが大事だ。政治的には大変だろうが。

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