HSBCグローバル経済セミナー 「米FRBの出口戦略と世界経済・金融動向」

概 況


城田修司氏

城田修司氏

HSBCグループHSBC証券会社 債券営業本部
マクロ経済戦略部長 城田修司氏

HSBCは8月28日に「グローバル経済セミナー」を開催。米国の出口戦略の行方を探るとともに、先進国・新興国経済の展望が語られた。本記事では米国、日本の状況に焦点を当てて城田氏の講演内容を抜粋して紹介する。

米国経済

利上げは2015年6月を予想

9月16-17日に予定されるFOMC(米連邦公開市場委員会)で出口戦略を明確化、10月にはQE3(量的緩和第3弾)の終了を決定する、というのが既定路線(セミナー開催8月28日時点)。その先についてHSBCでは次のように予想している。

【HSBCが予想するFRB出口戦略】
●15年6月のFOMCでゼロ金利政策を解除。超過準備預金金利(IOER、現在0.25%)を主要手段にして、翌日物リバースレポ(RRP、現在0.05%)とのレンジ内にFF金利を誘導。1年に1%程度の緩やかな利上げを継続。
●16年に債券償還分の再投資を停止
●16-23年の国債大量償還に合わせて、保有する債権を積極的に売買しないとの“受動的な手段”によりFRB(米連邦準備制度理事会)のバランスシートは縮小へ

金利上昇幅は限定的か

「リーマン・ショック以降、FRBのゼロ金利政策や量的緩和により実質金利はマイナスの状態が続いている。にもかかわらず、雇用回復が遅れインフレの気配すらないのはなぜか?」――ハーバード大学のローレンス・サマーズ教授が問題提起した「長期停滞論」。米国の実質GDP(国内総生産)は潜在GDPから大幅に下ブレしていることから、金融危機後に潜在GDP自体が低下してしまった可能性が示唆される。

加えてサマーズ教授は「貯蓄・投資バランスの変化(貯蓄超過・投資過小)が潜在成長率を引き下げ、結果的に自然利子率(均衡実質金利)が低下している」との仮説を想定。FRBもFOMCを開催するたびに成長率の下方修正を繰り返すなど、仮説に近づく行動を続けている。FF金利の中立水準は4%から2%程度に低下した可能性もあり、FF金利を2%程度に引き上げた時点で利上げを終了する公算も。

日本経済

図1

図1

「デフレ脱却」への高い壁

黒田日銀は人々の期待に働きかけることで自己実現的に2%の物価上昇を引き起こすことを目指すが、6月以降は期待インフレ率(BEI)が急低下している(図1)。

日銀は「マネタリーベースを2年で倍増させて、マネーストック→消費者物価を押し上げる」というトランスミッション・メカニズム(波及経路)を想定。昨年より異次元緩和を続けているが、1990年代以降は相互の関連性が低下するなど、メカニズム自体が崩壊していると考えられる(図2)。

これは欧米でも見られる現象だ。金融危機で銀行が貸し出しに慎重だった上に、期待成長率の低下に伴って企業が投資に消極的な状況が続き、マネーと物価のリンクが断ち切られた。今や人々の期待だけでインフレを押し上げることは困難といえる。

HSBCでは日本の実質GDP成長率を2014年度はゼロ%程度、15年度は1%程度に下方修正する予定。消費増税の影響は想定以上。家計調査を見ると、過去2度の増税時よりも消費支出の落ち込みが大きいことに加えて、買いだめができない「教養娯楽サービス」など、増税前の駆け込み需要からの反動減だけでは説明できない低迷も確認されている。

図2

図2

「量的緩和=通貨安」は幻想

量的緩和により通貨安が進むとの議論も実証できない。現在はそうした「市場の期待」だけを理由に円安相場が醸成されているが、先述したようにBEIが足元で急低下。市場の期待がはく落すれば一転、円高が進む可能性も。HSBCでは再び円高に向かい、15年には1ドル=100円を割れるとみている。

円高を想定する要因の一つに、長期金利の上昇圧力がある。過去の例を見ると、増税がBEIを押し上げるとの相関が確認され(図1)、今年12月に追加増税が決定されれば、BEIが上昇して長期金利を押し上げる可能性が高い。

新興国経済

リスク・オン継続で資金流入は増加へ

VIX指数は警戒レベルの20を下回る状態が続き、投資家のリスク選好度は依然高い。超低金利が続く先進国資産の代替投資先として新興国の通貨・株・債券が選好されており、いずれも昨年5月のバーナンキ・ショック前の水準にまで回復している。
70カ国、470超の金融機関が参加する国際金融協会(IIF)の調査によると、地域別では、欧州からの資金流入増が15年に期待されており、資産クラス別では14年後半から債券への増加を見込む向きが多い。
こうして資金流入増が見込まれる新興国だが、中でもファンダメンタルズ良好な国が選好されそうだ。

中国:経済対策効果が顕在化

インフラ整備など「ミニ経済対策」の効果が徐々に顕在化、製造業PMIは8月にかけて3カ月連続で節目の50を超えた。実態経済をもっとも正確に表すといわれる「李克強指数」も良好。これまで実質GDPに沿った動きが続いたが、昨年より大きく上放れた状態が続く。政府目標の実質GDP成長率7.5%は達成可能とみる。

インド:構造改革で高成長期待

新政権発足により構造改革への期待が上昇し、PMIがはね上がった。しかし、実際の効果は15年度以降に表れてくるとみられ、来年は5-6%の高成長を実現するとみる。7月に発表した予算案で、税収基盤の強化を目的に「物品サービス税」の年内導入を掲げたこともポジティブ。

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