年金問題で注目高まるヘッジファンド しかし、本格導入は「なお時間を要する」 ヘッジファンド証券 眞野定也代表取締役に聞く

概 況


ヘッジファンド証券  眞野定也代表取締役

ヘッジファンド証券 眞野定也代表取締役

約1852億円の企業年金資産の大半が消失していたAIJ投資顧問の問題に続き、厚生労働省は11月2日、企業年金の1つで430万人が加入する厚生年金基金制度を今後10年かけて廃止するとの方針を打ち出した。こうして将来のお金にまつわるネガティブなニュースが絶えず聞かれる中、われわれはどのように老後資産の準備を進めたらよいのだろうか――。今後、選択肢の1つに浮上するとみられるのが「ヘッジファンド」。その現状と市場動向を、ヘッジファンド証券の眞野定也代表取締役に聞いた。

――相次ぐ年金問題を受けて、運用担当者に変化は見られるか?
「相当苦しんでいるようだ。運用環境の悪化で抱えた逆ザヤに加えて、先ごろ厚生労働省が企業年金廃止の方針を示したものの、政治が不安定なため先が見通せず、対策もままならない。そもそも担当者の多くが他業務と兼務していることもあり、高度な専門知識と重責が求められる資産運用業務にかかわる決断を下すことに大きなためらいを感じている。例えばファンドの良しあしを判別して運用先を選別し直すなど、積極行動は極力控えたいとの姿勢がうかがえる」

「一方で、資産運用の重要性はますます高まるだろう。仮に厚生年金制度の廃止が決まったとしても、老後の準備の必要性は変わらない。低金利、株式市場低迷など世界経済の困窮が今後も続くとみられる中、かつてのように『10年預ければ自動的に資産が倍増する』といった時代にはもう戻れないのは当然だが、株式など『金融商品を買う』という一方通行の手法でやりすごすことも相当に難しくなってしまった」

――年金運用はどこに向かうのか?
 「これからの運用はあらゆる手法を組み合わせて、リターンとリスクをバランスよく取り入れることが望ましい。しかしながら先述したように、現在の仕組みの中で運用担当者に大きな決断を求めるのは酷であり非現実的。そこで私は厚生労働省が示すように、現在の企業年金というスタイルからの脱却が急務と考える」

――「日本版401k」への移行が推奨されている。
「確定給付型から、運用成績次第でもらえる金額が変わる確定拠出年金、いわゆる日本版401kを導入する企業が近年増加した。しかし、自己責任の範疇(はんちゅう)が大きい401kを選択するもアクティブ運用者は少なく、結果、従来の確定給付型と内実が変わらない、という事態が起きている。つまり、厚生年金廃止との結論を導き出したのと同様の問題が、日本版401kで表面化するのも時間の問題と言えそうだ」

「欧米に比べて日本人は資産運用の経験が浅く、投資に関してもどこか業者任せといった感が否めない。これからの時代は一人一人が自律的に資産について考え、長期的視点をもって運用していく必要がある。こうして資産運用が個人レベルにまで落とし込まれたとき、ヘッジファンドを扱う当社の出番がようやく訪れると考えるが、ここまでの構造変化には相当の時間を要するとみる」

――そもそも「ヘッジファンド」とは何か。
「いかなる環境においても利益を出す『絶対収益』の追求を目的に作られたファンドのこと。売りと買いを組み合わせてリスクを最小化する『ロング・ショート』、企業の合併・買収など転換期を狙った『イベント・ドリブン』など戦略は多岐にわたる」

――なぜ今「ヘッジファンド」なのか。
「2000年より以前のヘッジファンドはハイリスク・ハイリターンを狙った運用が主流で、“荒れた市場で荒稼ぎする”といったイメージが強かった。事実、イングランド銀行危機やアジア通貨危機を招いた張本人であることからも、危険な投資と感じる人は少なくないようだ。しかし、現在では運用の多様化が進み、マーケットのボラティリティが高まる中で、大きな損失が生じるリスクを抑制するヘッジファンドが主流となっている。ヘッジファンドの資産運用残高は2005年の1兆1053億ドルから、2010年には1兆9173億ドルと右肩上がりに増加している」

「昨今では日本のインターネット証券大手4社が公募型ヘッジファンドを販売するなど、一般投資家でも利用できる仕組みが整いつつある。そんな中、当社は2011年11月、ヘッジファンド専門の証券会社として設立。現在はエピック・パートナーズ・インベストメンツが運用する3本の私募投信を組み入れる『エピック・ヘッジファンド・セレクション1』を提供している。当ファンドは日本株マーケット・ニュートラル戦略をとる3本のファンドに原則として等金額投資を行うことで収益のブレを低減し、長期的に絶対収益の獲得を目指す」

――御社が扱うヘッジファンドの特徴は?
「これまでヘッジファンドは販売単位が2000万円を超えるような大口のため、一部の機関投資家や富裕層に利用が限定されていた。そこで当社は販売単位を100万円に引き下げて公募型投資信託というカタチにすることで、より多くの投資家が利用できるような仕組みを実現した」

「私は証券会社で富裕層向けに各種金融商品を提供してきたが、その経験から、相場に左右されることなく安定的な収益が得られるヘッジファンドが長期の資産運用に有効だと考えた。中でも『マーケット・ニュートラル/円建て』が優れているとの結論に達し、これに特化した商品を提供する会社を設立することに」

「マーケット・ニュートラル戦略とは、相場上下の方向性や為替などのリスクを極力排除して利益を積み上げることで、収益の安定化を目指そうというもの。ロング(買い持ち)とショート(売り持ち)の金額を同額に設定するので、お客さまには相場を日々見ずとも、または相場を知らなくとも、安心して過ごしていただける。さらに当ファンドは円建てで運用されるため、原則、為替リスクはない」

――コストについて。高いイメージがある。
「運用会社に対しては固定料率で支払う信託報酬に加えて成功報酬が発生する。ただしこれは利益が出たときにのみ発生するため、運用側への高いモチベーション喚起の役割を果たす。ヘッジファンドの運用者たちは投資家と同じ目線で必至になって収益を目指すという利点にも」

――会社設立から約1年。手応えは?
「年金問題を受けて『ヘッジファンド』という言葉が浸透していることを肌で感じている。当社では広告などは特にうっていないが、趣旨に賛同していただいた顧客数やメールマガジン会員、サイトアクセス数は増加基調。これに伴って当社以外の証券会社や運用会社の多くがウェブサイトに用語解説を掲載するなど、言葉が独り歩きしないよう各種対策も進んでいる」

「お客さまに利益をもたらし、経済的な不安を解消したいという思いを抱いて当社を立ち上げたものの、足元では『苦戦している』というのが本音だ。運用面では基準価額の元本割れが続いている。これまでマーケットでは『リターン・リバーサル』がセオリーだったが、潮目ががらりと変わってしまった。日本を代表する優良企業と呼ばれていた大企業がどこまで売られるのか、従前の経験則は全く通じない。しかしながら、ヘッジファンドの強み“リスク低減”という商品特性上リターンも同様で、年によってはマイナスもあるかもしれない。しかし10年、20年という長いスパンで考えた場合、銀行金利よりもはるかに有利で、投資の価値があるのでは」

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