米クレジットサイクル 時計に例えれば今は“4時”

概 況


少なくとも12カ月は魅力的な社債リターンが期待

カート・ワグナー氏

カート・ワグナー氏

ルーミス・セイレス ヴァイスプレジデント
ポートフォリオ・マネージャー カート・ワグナー氏が語る

ナティクシス・アセット・マネジメントは、グループ内に個性的な、そうそうたる運用会社を有している。その代表がルーミス・セイレス。社債を中心とした債券運用で知られる世界的な運用会社だ。日本の顧客からの預かり資産は、ナティクシス・アセット・マネジメント・グループ全体で158億米ドル(約1.5兆円)、うちルーミス・セイレス分が約9,500億円に上っている。同社でクレジット運用の中心を担っているのが、ヴァイスプレジデント、ポートフォリオ・マネージャーのカート・ワグナー氏。初めて来日、現在の米国債券市場の環境やクレジット市場に対する見解、同社のクレジット運用について語った。

■ファンダメンタルズの独自リサーチで有名

ルーミス・セイレスはアメリカで最古の運用会社の一つで、運用資産は2,200億ドルに上っている。そのうち債券の運用資産残高は1,940億米ドル(約19兆円)に達する。機関投資家からの個別の運用委託、ファンドを通じた機関投資家や個人からの運用委託が大きなウエートを占める。当社はファンダメンタルズのリサーチに強いということで有名だ。ファンダメンタルズのリサーチが投資プロセスの基礎となっている。具体的に投資対象として注目するのは、ファンダメンタルズに比べてバリュエーションが割安な債券である。ファンダメンタルズは社内の独自リサーチをベースにしており、私が担当している社債セクターにおいて、特に高い能力を持っていると自負している。特に投資適格社債に大きく投資しており、投資額は米国だけで400億ドルほどある。アメリカの投資適格社債の見通しとともにそのどこにバリューがあるのかを紹介したい。

fig1■クレジットサイクル、現在の位置

当社の見解では、クレジットサイクルというのは繰り返すもので、今後予測ができるものであると考えている。債券のパフォーマンスは、クレジットサイクルの今どこにいるのかということが大きな決め手になる。クレジットサイクルの属性は、毎回サイクルごとに違っている。今回のサイクルの属性は今までとは違う、非常に重要な属性を持っている。クレジットマーケットの状況を時計に例えて考えると、今は4時ぐらいにいる。ただし通常の時計は同じペースで進んでいくが、クレジットサイクルというのは、時によってスピードアップしたり、スローダウンとしたり、時によっては時計の反対回りに動くこともある。

クレジットサイクルは4つに分けられるが、このフェーズの中で拡大期(EXPANSION)が最も長く続く。2、3年続くこともある。社債市場のリターンは、拡大期の初期の局面では非常に魅力的だ。同じ拡大期の中でも終わりに近づくとボラティリティが高くなってくる。マーケットがこれから下降局面に入るということを予期してしまうからだ。しかし、現在の状況は少なくとも12カ月は魅力的な社債のリターンが期待できるとみている。

■投資は国債に対するスプレッドを検討

社債を投資家が見る時は、トレジャリー(国債)と比較してみることが多い。実際、投資家が社債に投資しようと考える時は、トレジャリーに対してどれだけのスプレッドがあるのかということで検討する。社債のリターンを考える時にはトレジャリーのリターンがどれぐらいなのか、金利がどうなるのかということを考える。ただし金利というのは、予測が難しい。私たちも金利の予測はするが、かなり幅広いレンジで予測をしている。そこでトレジャリーの予測も金利と合わせて幅広く、トレジャリーに対して社債はどうなっていくのかを比較でもって検討していく。トレジャリーに比べて社債の場合にはクレジットリスクがあるので、それをとる分だけの利回りの魅力が余分にないと投資はできない。社債のトレジャリーに対するスプレッドは現在100ベーシスとなっている。過去20年間のスプレッドは145ベーシスで、歴史的に見ると社債に投資する、利回り上のメリットは、過去20年の平均を下回っている。ということは現在、社債のバリエーションは少し割高だということになる。長期的な社債のスプレッドのグラフを見ると、スプレッドが高い時期はかなり短い。これは金融市場のボラティリティが高まった時に、またその後でそうした状況が起こる。一方、スプレッドの非常に狭い時期は長期的に続く。スプレッドの平均は145ベーシスなので、マーケットとしては全体の40%ぐらいはスプレッドが100ベーシスか、それよりタイトであるという時期があったわけだ。ということは現在が100ベーシスなので、今後1年を予測したと時にこれよりもタイトな状況になるかもしれない。

■社債のスプレッド予測

将来の社債のスプレッドを予測する際にファンダメンタルズの主な要素4つを見ている。1つ目は現在、経済サイクルがどこにあるのかという点だ。アメリカの景気の成長の今後の見通しを見るわけだが、現状ではポジティブな成長が続くとみている。経済成長見通しが良いということは、社債には良いことであるし、スプレッドはタイトになっていくということだ。景気という側面は、ファンダメンタルズの中ではポジティブな要素だ。

2つ目は企業収益を見ること。企業収益が良いのは、社債には良いことだ。われわれが企業収益を測る時、企業全体の総利益をGDP(国内総生産)で割って、全体の経済の利益率を測る。それが現在は過去最高のレベルにきている。この面でも現状はポジティブだ。ただし、第1四半期のGDPがマイナスとなった。これは天候という非常に特異な要素があったからだ。在庫の状況も短期的に変わってしまったが、第2四半期になれば元の状況に戻る。企業収益も記録的な高さに戻っていくと思う。企業収益の長期のグラフを見ると、過去のサイクルと比べ今回のサイクルで企業収益がどれだけ高いかということが分かる。

もう一つ見る点としては、それだけ高い利益を上げたならば企業がキャッシュフローをどのように使っているのかだ。例えば、企業が利益を上げて、それで負債を返済しているのであれば、社債を持っている投資家にとってはプラスだ。レバレッジが下がるからだ。設備投資に回しているのであれば、それも社債の投資家にはプラスだ。それはその企業のバリュエーションをサポートするからだ。それに対して企業側が株の自社株買い戻しに使っているとすると、特にそれを借入金で賄っている場合には社債投資家にはマイナスだ。キャッシュフローの金額より投資の金額が低いことから考えて、全体を見ると企業は設備投資に慎重になっている。逆に自社株の買い戻しが増えているということは社債の保有者にはマイナスだ。全体的に、企業のバランスシート管理からみるとキャッシュフローの使い道に関しては、現状、中立の要素だと思う。

4つ目は信用のアベイラビリティ。これは主にFED(連邦準備制度)が決める政策に影響される。過去を見ると実質のFFレート(名目のFFレート-インフレ率)が2、3%を超えるとイールドスプレッドが大きく上がるのがパターンだ。現在のFFレートは低く、実質ではマイナスになっている。これはFEDがまだ金融緩和政策を続けていて、これがおそらく1、2年続きそうなことを示している。利上げのタイミングとしては当社では来年まではないと思っている。利上げをしてもそれはゆっくりとしたペースで行っていくだろうから債券の保有者にとってはサポート要因だろう。信用のアベイラビリティは強力だ。

■今後の見通し、十分ポジティブ

これらのファンダメンタルズの要素を総合的に考えると、それぞれの要素はポジティブか、あるいはニュートラルなもの、イールドスプレッドでみる社債のバリュエーションも過去の経緯と比べてもタイトであるが、このタイトなレベルは今後当面続いていくと考えられる。ということは社債の今後の見通しはリターンからみても、トレジャリーと比べても充分ポジティブであると思う。

トレジャリーのリターンはどうなるかというと、それはFEDの利上げのペースによると思う。ただし、これはなかなか予測がしにくい。金利はまだ非常に低いので、中期的には上がってくとみているが、今後1、2年はトレジャリーのリターンもさほど上昇しないと考える。しかし、トレジャリーに比較して、社債であればさらに上乗せのリターンが期待できる。

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