世界・アジア資産運用業界の現状と見通し(前編)

概 況


「SAAAME(サミー)」が成長を牽引へ

PwCシンガポール法人パートナー、PwCアジア・パシフィック資産運用リーダー
ジャスティン・オング氏に聞く

ジャスティン・オング氏

ジャスティン・オング氏

PwC(プライスウォーターハウスクーパース)がこのほど東京で開催したグローバル・ファンドセミナーの講演のため、ジャスティン・オング氏(PwCシンガポール法人 パートナー、PwCアジア・パシフィック資産運用リーダー)と、ジョセ・ベンジャマン・ロンレ氏(PwCルクセンブルク法人 パートナー、マーケテイングリーダー、グローバル・ファンド・ディストリビューション・リーダー)が来日した。そこで、両氏に世界およびアジアの資産運用業界についての現状と今後の見通しなどについて聞いた。今週はジャスティン・オング氏、来週(8月8日付)はジョセ・ベンジャマン・ロンレ氏とジャスティン・オング氏の2週にわたってインタビューを掲載する。

資産運用業界のトレンド

PwCは、2020年までの資産運用業界のトレンドについてまとめた調査・分析資料「Asset Management 2020」を14年2月に発行した。数年前の金融危機を背景に、世界各国で金融規制改革が進んでいる。また世界規模で人口動態の変化、テクノロジーの進展、新興国の台頭など、大きな社会的変化が予想されている。資産運用業界の関係者はこれらの変化に対して今後どのように対応するか、検討すべき時である。この調査は、今後、資産運用業界がどういう方向に進むのかについて同業界の関係者に理解していただく目的で行った。今後直面する課題と対策を理解していただけるとともに、中長期的な戦略立案の手助けになるであろう。

まず、20年までの資産運用業界の成長について、運用資産残高の推移を基に考察を行う。その後で、PwCは、ゲームチェンジャー(今後の業界動向を大きく変える出来事)と呼ばれる6つのドライバーを考えているが、この6つのドライバーによって資産運用業界がどのように変わっていくのか、PwCの見解をご紹介したい。

グローバルな資産運用残高は、12年の63.9兆ドルから20年には101.7兆ドルに増加するとみている。この成長は、現在大勢を占める投資信託、投資一任を通じた伝統的資産への投資のほか、オルタナティブ投資についても期待できる。オルタナティブ投資は、ヘッジファンドのほか、プライベート・エクイティ、不動産などに対する投資を含んでいる。20年においても伝統的資産に対する投資が運用資産の大勢を占めるものの、オルタナティブ投資は、今後大きく成長する分野であり、運用資産残高は12年が6.4兆ドルであるのに対して20年には13.0兆ドルと約2倍に増加すると予測している。地域別に見ると、「SAAAME(サミー)」が成長を牽引(けんいん)すると考えている(SAAAME:South America,Africa,Asia,Middle East――PwCの造語で、南アメリカ、アフリカ、アジア〈特に中国〉、中東を指す)。PwCでは、20年までの運用資産残高について、北米、欧州において年率5%前後の成長を予測しているのに対し、これらの地域では、おおむね10%強の伸びを予想している。特に、SAAAMEでは、個人富裕層に加えて、人口動態の変化すなわち中間富裕層の増大を受け、中間(一般)富裕層が成長を牽引すると考えている。

資産運用業界が金融市場のビジネスの中心に

次に、今後の業界動向を大きく変えるであろうゲームチェンジャーについてお話をしたい。ゲームチェンジャーの1つ目は、資産運用業界が今後、銀行業、保険業等他の金融セクターと同等に金融ビジネスの中心となるということである。

その要因として第一に、金融危機に端を発した銀行業や保険業に対する規制の強化が挙げられる。規制圧力により銀行や保険会社はより保守的、健全な経営を迫られる一方、投資の分野では、資産運用業界はより重要な役割が求められるであろう。第二の要因として、世界の人口動態に見られる高齢化の進展と医療費や介護費の増大が挙げられる。特に、中国、シンガポール、日本、ヨーロッパにおいては高齢化が著しく、資産運用業界が提供する年金タイプの商品に対する需要が格段と高まるであろう。一方で、アフリカやラテンアメリカ、インドにおいては、若年層の増加も予測されており、富を保護・保全するというよりも、今後ますます富を作っていくことに注力されるであろう。今後のファンドの商品開発は、地域ごとに変わってくることも予想される。第三の要因は、都市化の進展である。今後10年、20年のうちに人口の多くが郊外あるいは地方から都市部に移り住むことが予想されている。今後30年の間に、都市部に住む人口が18億人になるとの予想があり、アジアはその半分を占めるだろうといわれている。人口が都市部に流入するということで、エネルギー、水、食料、インフラに対する需要が高まり、また、これを支える社会基盤の整備が求められる。アジアだけでも11兆ドルのインフラ投資が必要といわれており、ファンドを通じて資産運用業界の果たす役割が今後ますます重要となるであろう。(T)

ジャスティン・オング(Justin Ong)氏のプロフィール

PwCシンガポール法人 パートナー、PwCアジア・パシフィック資産運用リーダー。22年以上にわたり、PwCシンガポール、PwCロンドン、PwCルクセンブルクにて、多くの資産運用業界およびプライベート・バンキング業界に関する業務に従事し、2014年にはPwCアジア・パシフィックの資産運用リーダーに就任。PwCアジア・パシフィックのプライベート・バンキング・リーダーも兼任。現在、シンガポール投資信託協会 レギュラトリー委員会委員シンガポール投資信託協会 リスク・アンド・パフォーマンス委員会委員

PwCについて

PwC(プライスウォーターハウスクーパース)は、世界157カ国に及ぶグローバルネットワークに18万4000人以上のスタッフを有し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスの提供を通じて、企業・団体や個人の価値創造を支援している。今回のセミナー「グローバル・ファンドセミナー」は、PwCのメンバーファームである あらた監査法人、税理士法人プライスウォーターハウスクーパースおよびPwCルクセンブルク法人が7月9日に開催した。

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