グローバル投資家の投資戦略(下) 次にくるリスク―米景気、欧州物価、ウクライナ情勢、中国経済、日本の消費税

概 況


ドル円、双方向の取引で円安進まず

BNYメロン銀行 マネージング・ディレクター サマルジット・シャンカ氏が語る

サマルジット・シャンカ氏

サマルジット・シャンカ氏

資産運用と証券サービス、為替サービス分野の世界的なリーダーである米国のBNYメロン銀行(本店はニューヨーク)のマネージング・ディレクターで、グローバルマーケット部門のストラテジストであるサマルジット・シャンカ氏が語ったグローバル投資家のお金の流れを巡る後半部分を紹介(前半は4月25日付で掲載)。同氏は、BNYメロン銀行のカストディ(証券の保管・管理)のフローを日々、マクロの分析を行っている。今回は、キャリートレードや、日本国債の動向、今後予想されるリスク要因などについてテーマごとに語ったもの。

■最近のキャリートレードの動向

キャリートレード(注1)についてはまだ行われていると思う。リスクをとってもリターンをとっていきたいというアピタイト(リスク選好度)があるからだ。それはどれくらいのリスクに対するアピタイトがあるかによる。ただし通貨によっては意欲的なものがある。ニュージーランドドルやオーストラリアドルについては、中央銀行が既に金利が底を打ったと言っているので、これらの通貨へのキャリートレードに対しては意欲的だとみている。もっと広い意味で見た場合は、多くの投資家は高いリターンを求めて、通貨だけではなく、高いリターンを生むような資産全体におカネを向けている。従って、新興国でも、例えば、債券市場に興味が集まっているところがある。新興国には不透明感はあるが、高い利回りを求めて債券市場におカネを動かそうと思っている投資家もいる。例えば、南アフリカやブラジル、ヨーロッパ周辺国の債券市場にお金が流れている。広い意味でキャリーはあるようだ。日本の投資家も利回りの高い資産におカネを動かしている。例えば、最近はオーストラリアの売出債にも人気が集まっている。利回りを求めようとする意欲は日本だけでなく、どこでもある。BNYメロン銀行の「iFlow」(注2)を見ると、お金の動きがどのような意味があるのか、どれぐらい持続するのか、これらフローをどのように自分たちの投資に使うのがいいのか、といったところを慎重に考えている。

今までのようにキャリートレードが行われたからといって必ずしも円安になるということではない。ドル円の動きについて双方向の取引があるからだ。例えば、トレードのファイナンスをするのに、米ドルを使っている投資家も多いからだ。米ドルもかなり金利が低い。過去に比べるとキャリーの状態は複雑になっている。

(注1)キャリートレード…金利の低い通貨で調達(借り入れ)した資金を、外国為替市場で金利の高いほかの通貨に交換し、その高金利で運用して金利差収入などを稼ぐ取引(運用手法)

(注2)BNYメロン銀行の「iFlow」…株式、債券、為替などを網羅したマルチアセットクラス対応調査ツール

■リスク回避先としての日本国債

通常はリスクが高くなった時には日本の債券におカネが流れることはあるし、今回、特にマネーマーケットでは日本の債券が買い超になっていることは確かにある。日本の国債は地政学的なリスクが高まった時にはセーフヘイブン(投資の避難先)と思われている。しかし、フローの規模は、期待したほどの大きな流れがあるわけではない。今回のウクライナ情勢があって不安になっているが、比較的落ち着いた状況にある。最初はリスク回避の兆候が見られたが、現在のところ、それほど危機は大きな影響は与えない。国際的なリスクアピタイトに大きな影響は与えないと思ったようで、リスク回避の動きはなくなってしまったので、それほど持続するものではないと考えている。

■通常時の日本国債への資金流入は下向き

日本国債の健全性について。われわれは27兆ドルのデイリーのフローを管理するとともに、そのほかに9.5兆ドル相当のフロー、データ、ポジションといった統計が世界の株式や債券のマネジャーから入ってくる。彼らのポジションを知ることができる。アメリカのグローバルな債券ポートフォリオでの通貨ごとの債券アロケーション(投資資金を複数の異なった資産に配分する)の推移を見ると、日本円に対するおカネの流れついては、2007年7月、08年1月、6月といった金融危機の時は大きく上昇しているが、それ以降の流れは下向きで、低い状況となっている。利回りの低い国の中でも国際的な投資家からおカネの行き先としては好まれていないということである。日本国債に対する需要としてはほとんどが日本の投資家からの需要だが、最近では日本の投資家ですら分散したいと思っている。もう少しリターンの高い資産、例えば、株式や外債におカネを移そうとしている。日本の投資家に対して日本の政府が公的部分の赤字が対処できているとか、財政改革をどのように進めていくかなど、長期的なプランをどれだけ明確に示せるかにかかっている。

■危機時のセーフへイブン先、1番が米国債、2番目が日本国債は不変

もっとも、リスク・リターンを求めるような環境の中でこのようなトレンドが出てきているが、また何らかの大きな危機やリスク回避の雰囲気が流れてきた場合、やはり、アメリカのトレジャリーに加えて、日本国債がセーフへイブンとしておカネの行き先になるとみている。

24年間のフローを持っているが、長い歴史の中で何かが起こった時に一番先におカネが流れるのはアメリカのトレジャリー(米国国債)で、2番目が日本国債となっている。アジアで危機が起こった場合には、おカネはアメリカのトレジャリーに流れることになるとみている。

日本でQE(量的緩和)を行ったので、このようにおカネが動くようになった。それが昨年は円安になった背景だ。投資家のセンチメントとしては若干一歩を引いて日銀が次に何をするか見てみようとしている。日本の投資家や年金は、日本国債から分散を図ろうしている。リターンを求めて分散していくのが自然の流れかと思う。今後、日本国債については、日本の財政がどうなるのか、日本の公的部門の赤字がどうなるのか、安倍首相がどういう対処をしていくのかといった情報を皆さんは待っているものと考えている。

■次に予想されるリスクは

次にくる大きなリスクとしては、1つ目の経済的なリスクという観点からは、一番大きなスポットライトが当たっているのはアメリカの経済回復とみている。第1四半期の結果を見ても、標準以下であった。これは、本当に天候が理由だったのかどうかを検証していく必要がある。2つ目のリスクはヨーロッパ。状況は低インフレ・ローフレーションにあり、ユーロが強くなっているのは決してプラスにはならない。投資家の方々は、政策決定者としてECB(欧州中銀)は次にどうしていくのか、次に何をしていくのかに気を付けて見ている。3つ目のリスクはやはり地政学的なリスク。ウクライナ情勢が落ち着いていくかどうかを見守ってく。このほかアジアのリスクとして2点を加えたい。1つ目は中国リスク。現在、経済が減速していることに懸念が集まっているが、今後、うまくマネジメントして、ソフトランディングできていけるのか。2つ目は、日本では消費税の影響がどうなるのか。特に消費者の景気信頼感が成長率やインフレにどういう影響を与えていくのか。それに対して日銀や安倍首相がどう対応していくのかということになる。

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