Turning the corner ~角を曲がりつつあるアジア~ HSBC「ASEAN経済セミナー」開催

概 況


インドネシア、タイ、マレーシアの現状と見通し

スー・シアン・リム氏

スー・シアン・リム氏

HSBC(シンガポール)
アセアン担当エコノミスト スー・シアン・リム氏

先進国の回復に取り残され、成長鈍化が懸念されるASEAN(東南アジア諸国連合)。しかしながら状況は国ごとに大きく異なり、例えばマレーシアについては“勝ち組”との見方も聞かれる。HSBCは2月25日に「ASEAN経済セミナー」を開催。東南アジア3カ国(インドネシア、タイ、マレーシア)担当エコノミストのスー・シアン・リム氏が各国の現状と見通しを語った。

ASEAN今後の見通し

懸念を抱えるASEANだが、今回は少し楽観的な見解を披露したい。ASEAN諸国では国内経済の鈍化が見られる一方で、グローバル経済の回復に伴って輸出など対外的な経済要因が拡大傾向にある。インドとインドネシアを除く国の輸出状況を見ると、2013年下期にプラスに転じている(図1)。月次で5%ほどと、リーマン・ショックからの回復初期2ケタ増に比べれば大きな伸びではないが、回復基調にあることは明らか。今後も“段階的な”成長が続くだろう。

fig1「国別」強弱を見極める

年初より米国FRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和策の縮小に着手したが、現段階では「引き締め」ではなく刺激策の継続であり、緩和策の減速にすぎない。一方、日本や欧州では緩和策を続けており、特に日銀は緩和拡大の姿勢を明らかにしている。グローバル規模での流動性は依然として過剰な状態が続き、ASEANにもそれが供給されると考える。

投資に当たって重要なのは6-12カ月ほどの短期的な見通しよりも、10年後を見据えた成長の可能性だ。ASEAN諸国の現状はさまざまで、個別に強弱を判断した上で投資先を選別したい。

マレーシア/国内成長鈍化も、輸出は堅調

マレーシアの状況はASEAN全域のそれとよく似ている。国内の成長ペースは鈍化するも、対外的なサイクルが改善傾向にある。GDP(国内総生産)成長率は昨年の4.7%から今年は5%超への改善を見込んでいる。

固有のファクターとしては、政府は財政再建に真剣に取り組んでおり、14年はこれが国内成長の足かせになりそうだ。債務残高対GDP比率は自ら課した上限の55%に近付いている。公的債務は「補助金」に充てられており、予算の20%を占める。燃料や電気に加えて、食品に関する補助金まで存在し、もはや持続可能な状況ではない。格付け会社はマレーシア政府に格下げの可能性を警告している。

そこで政府は昨年ガソリン価格を10%以上引き上げたり、砂糖の補助金を廃止するなど、格下げ回避の取り組みに着手。これが消費者の支出や企業活動にも影響を与え始めている。こうして国内は成長鈍化が予測される一方で、グローバル経済の改善に伴い、輸出が足元で上向きに。とりわけ天然ガスや電気機器の輸出が伸長している。

「改革」で中長期的な成長を期待

これまでの低金利環境下でその恩恵を享受できなかった国については、今後の飛躍は難しいとみる。一方で、各種改革を推し進めるマレーシアについては中長期的な成長を期待したい。昨年の選挙もスムーズに取り行われるなど政治的不安は少なく、指導者の継続性も確保されている。

タイ/引き続きマクロ経済見通しは「弱気」

政治的混乱によるリスクが懸念されるが、それよりも前に経済は厳しい状況にあった。GDP成長率(季節調整済前期比)は13年の第1四半期がマイナス、第2四半期は横ばいだった。第3四半期は伸長するも、押し上げ要因は「純輸出」。輸出が堅調だったからではなく、経済が鈍化して輸入が弱含んだことが要因。個人消費支出は3四半期ともマイナスが続いている。

政情不安がもたらす経済への影響

タイ経済については悲観ムードが漂い、今後の見通しも不透明。14年は3.5%成長が見込まれているが、既に4%超から下方修正済み。さらなる調整も懸念される。政情不安が高まった際にはその後、出資が大幅に縮小することが過去のデータからも確認されている。

成長ドライバーも見つからず…

あまり知られていない事実だが、タイの人口動態は芳しくない。既に高齢化社会の入り口に立ち、17年までには労働力人口が縮小を始める見込みだ。出生率は中国と同程度にまで低下している。
加えて、ある調査結果によると、タイはテクノロジーの進化、グローバルの競争力といった観点から「革新的な能力」が欠けているとの指摘も。世界的にはアッパーミドル層の多い経済国だが、もう一段の成長は難しいとみる。

インドネシア/最悪期脱するも、減速要因の解決は長期化

fig2インドネシアは市場に“強要されて”ではあるが、正しい方向には向かっている。インフレは中央銀行の想定レンジ内にあり、貿易収支も昨年から改善傾向に。経常赤字は100億米ドルのピークから縮小傾向にあり(図2)、インドネシア経済は最悪期を脱したようだ。

ただし構造的な問題が潜んでおり、完全解決には時間を擁するだろう。例えば石油に関する消費行動。国民は燃料価格が世界的に高騰しているにもかかわらず、1リットル当たり6,500ルピア(約60㌣)と非常に割安で石油製品を利用してきた。このように過度な補助金プログラムの是正は不可欠であり、政府は昨年、05年以来となる石油商品の大幅値上げを断行している。

選挙控えて抜本解決策は先送り

fig3そのほかの下押し圧力の1つに大企業の本国送金がある。インドネシアは海外から直接投資を引き付けたものの、多国籍企業はインドネシアを支えるよりも、インドネシアで稼いだキャッシュを本社に戻すことで配当水準を維持しようなどと考えているようだ(図3)。

政府はこのような問題を認識している。可能性としては、企業に財政面でのインセンティブを導入して再投資しやすい環境を整えることで解決が図れるだろう。しかしながら、今年は選挙の年。4月の議会選挙、7月の大統領選を控えて大きな法案を通すのは難しい。

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