若年層のための資産形成と非課税制度の活用 フィデリティ退職・投資教育研究所所長 野尻哲史氏語る

概 況


野尻哲史氏

野尻哲史氏

退職後の資産準備をどうすべきか。高齢化の進展とともに、公的年金だけでは補えない部分が大きくなっている。退職後の資産形成としての確定拠出年金とNISA(少額投資非課税制度)との組み合わせを提唱する一方で、求められる自助努力として、20歳代、30歳代からの逆算の資産準備の考え方なども披露している。

■現在の20歳代、30歳代が抱える課題

人口構造の変化は社会にダイナミックな変化をもたらす。少子高齢化は日本の社会、経済のありようを大きく変える。個人の生活は従来以上の多様性を見せながら、その平均値として人口構造のうねりを醸し出している。現在の20歳代、30歳代が抱える課題は、多様化する生活パターンと、それが収れんされた結果としての超高齢化社会の到来が自身の退職後の生活保障を難しいものにしている点だ。

人はより良い生活を求めて一生懸命に働き、年収を上げることに努力する。その一方、一度生活水準が上がってしまうと、簡単にはそれを放棄できない。これは退職においても同様で、退職したからといって、生活水準を簡単に引き下げることはできないもの。フィデリティ退職・投資教育研究所が2013年4月に実施したサラリーマン1万人アンケートの結果では、「年収が高い人ほど、年金以外に必要と考える資金総額が高い」ことが分かったが、年収2,000万円以上の層においては必要額が6,641万円にも及んでいる。ちなみに、公的年金以外に必要となる退職後の生活費総額は平均で3,016万円だった。また、年収が最も低い層でも、本人は2,524万円が必要と思っているとの結果が出ている。

退職後に1億円を超える生活費が必要?

fig1減らない退職後の生活費としては、80歳代でも月額20万円台後半が平均値であり、60-95歳までの35年間累計では1億1,784万円が必要になるとの試算が出てくる。仮に目標代替率68%で退職直前の年収600万円で計算すると、35年間総額は1億4,280万円。一方で、公的年金でどこまでカバーできるかをみると、公的年金受給の男性平均は年179万円、女性は94万円で夫婦合計では273万円。これを35年間だと受給総額は9,580万円。先の1億4,280万円との比較では単純にみても3,000万-4,000万円が不足することになる。

働き方の多様化が大きな懸念要因に

年金制度については、職域で異なることから、現役世代の働き方によっては年金の受給額が大きく異なっていることは課題だろう。厚生年金、共済年金などの2階建て部分がある場合は、夫婦で年300万円以上の年金額になっている一方で、国民年金だけの場合には年100万円台の年金額にとどまっている。厚生労働省による老齢年金受給者実態調査(平成23年)によると、現役時代の経歴別に公的年金受給額を比較してみると、かなりの開きがあることが分かる。つまり、最も少ない受給額は夫がアルバイトで妻が自営業中心の場合で年間約132万円。最も多いのが夫婦ともに正社員の場合で同360万円となり、2.7倍の開きが生じる。

「標準世帯」では見えない時代

人口構造の変化に内在する世帯の多様化は、いわゆる「標準世帯」といった概念を喪失させている。そのため、退職後の生活のための資産形成を考える際にも、「標準世帯」にとらわれない考え方が必要になろう。例えば、1995年から2010年までの15年間に総世帯数は794万世帯増えたが、そのすべてが単独世帯(554万世帯)と夫婦のみの世帯(263万世帯)。この2つの類型で全体の52%にも達している。また、新生児の4分の1の母親は35歳以上となっており、退職時期に至ってもまだ子供の教育費が必要となる世帯が、推計で今後200万世帯を超えることになりそうだ。そこでは、「教育」「退職」に加えて、親の「介護」がまとめて一度に来る世代の増加も見込まれている。20-65歳人口は7,321万人(平成25年7月)、そのうち、公的年金制度のカバー範囲は6,775万人で、600万人ほどは「無年金」などで対象外となっている。これらは大きな問題だ。

■求められる自助努力

退職後の資産形成の重要性に対する認識不足

fig220歳代、30歳代は意外に投資をしている比率が高く、男性で3-4割、女性で1-2割に達している。ただし、退職後に備えるための資産形成との自覚の下に資産運用をしている人は男性で12%、女性で3-4%と少ない。これは若年層の投資の主な向け先がFX(外国為替証拠金取引)となっているためで、20歳代男性の26%、30歳代でも21%がそれに該当する。

逆算の資産準備=45年間の年率3%運用

退職後の資産形成には、まずゴールの設定が必要だ。長寿化が進む中で、60歳男性の20%が90歳まで、60歳女性の20%が96歳まで生きる時代であることを考えると、保守的にみても、60歳から35年間くらいの生活費を支えるだけの資金をゴールとして想定すべき。以下は、このゴールを達成するために必要な準備額を積み上げる「逆算の資産準備」の考え方をお伝えしたい。

まずは積み立てる時代。30歳代で月額4万円、40歳代で同5万円、50歳代で同6万円の資金を年率平均3%の収益率で定額積み立てをすれば、計算上、60歳の時点で2,806万円の資産となる(手数料、税金を考慮せず)。年代を追って積立額を増していくので、これを「ステップアップ投資」と呼ぼう。さらにボーナスを併用すればゴールの実現性も増す。

一方、60歳から75歳は「使いながら運用する時代」とする。退職したとはいえ、資産運用からは引退しない時期を60歳から75歳までの15年間と想定。この時期は生活のために手持ちの資産の一部を使いながら、残りの資産は運用する。その場合、定率引き出しが重要なポイントとなるが、仮に年率4%引き出しで、残りを年率3%で運用すれば、毎年1%ずつ資産が目減りしていくことになる。この“3%運用・4%引き出し”を実践した場合、仮に75歳で2,400万円残すことを目標にすれば、計算上は、60歳時点で2,800万円強の資産があれば達成可能となる。

■確定拠出型年金とNISAとの共用

退職まで中途引き出しが認められない確定拠出年金の目的は、退職後の資産準備に尽きることから、引き出しが自由な制度であるNISAとの相互補完的な位置付けは明確にできると考える。例えば確定拠出年金は、退職後の生活費を賄う資産形成に特化させ、住宅資金や教育資金など、退職以前に引き出しが必要な資金需要にはNISAを活用するといった、相互の制度的特性を生かせる活用方法を提唱したい。英国では、年金制度と給与天引きで積み立てが可能なISAを併用して企業従業員に提供する「Workplace ISA」という仕組みがある。

このような仕組みが日本でも導入されれば、若年世代の資産形成を大いにバックアップすることとなろう。例えば、確定拠出年金の口座で月3万円の積み立てのもと、仮に年率3%で運用できれば、30年後には1,750万円強の資産になる。これにNISAの非課税投資総額(5年間分)500万円を加えれば、2,250万円になり、夫婦でNISAを使えば、さらに500万円上積みできる。

中途引き出しができない確定拠出年金とNISAを併用するという議論は、英国のみならず日本においても必要と思われるが、そのためには、制度の改善も必要になってくる。(1)制度自体の恒久化――現状は2023年までの10年間の時限措置だが、これを恒久化して若年層の老後資産形成の一助とする。(2)口座移動の自由化――口座開設金融機関を自由に選択できるようにする。これは、2015年度の税制改正大綱に盛り込まれているため、2015年から実現の方向。(3)非課税期間の拡充――英国のISA同様に非課税期間を恒久化し、より一層長期的視野に立っての確定拠出年金との併用を可能とすることで実現性が増す。

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