リスク・オン強まり、新興国の魅力に再脚光 新興国経済・投資 2014年展望

概 況


松田宇充氏

松田宇充氏

台頭するフロンティア諸国にも要注目

HSBC投信 代表取締役社長 松田宇充氏

数年来続いた債券志向から一転、2013年のマーケットは、株式などリスク資産への資金移動「グレートローテーション」の動きが見られ始めた。とりわけ足元では先進国株式への注目が高まっており、この傾向は当面続くとみられる。そんな状況下で「より大きなリターンを望むならば、新興国に目を向けるべき」と語るのが、HSBC投信代表取締役社長の松田宇充(まつだ・しょうへい)氏だ。松田氏に新興国投資における2014年の相場展望と投資戦略を聞いた。

2013年総括/新興国株「受難の年」

ちょうど1年前のインタビューで私は2013年について「リスク資産の価値が見直され、株式投資について強気になるべき年になるだろう」と語った。先進国株式はまさにその通りとなったが、新興国株式への投資に関しては、前半はおおよそシナリオ通りだったものの、5月にFRB(米連邦準備制度理事会)が量的緩和縮小の可能性に言及すると、市場が動揺。以降は新興国株式などリスク資産が売られた。この余波は意外と長く続き、10月あたりになりようやくリカバリーの動きが見られるようになった。

2013年の新興国株式は総じて現地通貨ベースでマイナスリターンを示した。とりわけブラジル、インドネシア、南アフリカ、トルコなど経常収支が悪い国が売られた。一方でNYダウは27%ほど上昇、円ベースでは54%も上昇するなど、先進国株式は総じて好調だった。

2014年展望/心理的打撃受けるも成長は不変

ここ数カ月は、新興国株式が足踏みする一方、先進国株式は高値更新が続いている。なぜか。「FRBの資産購入縮小懸念で新興国から資金が流出した」との憶測も聞かれるが、少なくとも当社の分析ではそのような大きな資金の動きはない。先に挙げたブラジル、インドネシアなどでは通貨防衛策も万全だ。つまり新興国株式は心理的な要因によってのみダメージを受けたと考えられる。

新興国の高成長は不変だ。先進国は米国での「シェールガス」登場により回復したが、成長率が現状の1-2%から突如、新興国並みの5-6%に高まることは考えにくい。逆に、新興国の成長が6%から3%に半減することもない。

BRICs“あふれ出る”マネーの受け皿に

12月中旬にFRBが量的緩和縮小の「方向性」を示したことで、長らくマーケットを覆っていた暗雲が払しょくされた。この先はリスク・オンのムードがますます高まるとみられ、第2四半期あたりからは新興国が脚光を浴びるとみる。

日米の堅調はもうしばらく続くだろう。出遅れ気味の欧州も銀行の資産査定を契機にボトムを打ち、上昇局面に向かうとみる。こうして先進国のアセットがますます値上がりすると、マーケットには“次を探す”動きが生じるだろう。日本や欧州は緩和の手を緩めておらず、マネーは増え続けている。当然、これは先進国だけでは吸収し切れない。そして世界を見渡せば、実は経済が良好でインフレ問題も大きく縮小した新興国が、投資家の目に映るだろう。いったんブームとなれば投資資金の流入は加速する。中でも、近年見放されていたBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)は受け皿としての規模も大きく、より大きな資産価格の見直しが起こることが期待される。

新興国株・債券とも極めて良好な投資タイミング!

5-10年といったスパンでいえば、金利引き上げが続いたブラジルやインドネシアなど一部の新興国では現在、極めて良好な投資機会が提供されていると思われる。債務不履行の可能性は極めて低いことを考えれば、高金利かつ通貨安は債券投資にとりベストな状況であることは言うまでもない。また、株式投資の観点から見てもチャンスは多い。

新興国の実態経済は堅調にもかかわらず、これまでマーケットは心理的な懸念が先走りしてオーバーリアクションを引き起こしてきた。新興国では通貨が売られて国内の輸入物価が上昇、インフレ抑制のために金利がさらに引き上げられるといった負の連鎖が続いた。しかし、いったん危機が去れば金利も為替も安定に向かうため、この先は、債券投資については金利と為替から二重のリターンが期待できる状況が生まれる。

新興国株式も同様で、FRBの動きが読めない不安からこれまで売られてきたが、道筋が示されたことで、この先は安定に向かうことが予想される。金利引き下げに伴い、割安な水準に放置されている株価が上昇に転じることが期待される。

注目国(1)メキシコ/シナリオ転換で成長加速

2013年は新興国株式がそろって軟調推移する中、堅調だったのがメキシコだ。実態経済が極めて強く、近い将来の懸念材料も思い当たらない。

HSBCグループはグローバル規模で金融業務を手掛けるが、メキシコ国内の物流や資金の流れを見ると、年間40-50%レベルで急拡大している。かつ、この活況は今後も数年間続くと予想される。これまでは隣国・米国の堅調に支えられてきたが、今後は、先ごろ国会で承認されたエネルギー改革法案による景気押し上げ効果が期待されている。

本法案により、これまで国有だった国内エネルギー産業に、外資を含む民間企業の参入が認められた。メキシコは米国を再生させたシェールガス・オイルの埋蔵量が世界有数(米国、アルゼンチンに次ぎ第3位)といわれるが、設備投資に着手できずにいた。今後は海外からの直接投資の増加や技術導入などが進み、一層の成長が期待される。

注目国(2)インド/新リーダー登場で懸念一掃

インドは急速に資産価格を戻しつつある。FRBの資産購入縮小懸念で通貨が売られてきたが、9月、RBI(インド準備銀行)総裁にラグラム・ラジャン氏が就任すると、ルピー相場を下支えする方針や対策が次々に示されて、動揺を一掃した。

政治面でも大きな転換の兆しが見える。昨秋行われた地方選挙では主要5州中4州で最大野党のBJP(インド人民党)が勝利、10年ぶりに政権奪回期待が高まっており、株価を押し上げている。

そのほかの注目国

中国:今年も7.5%ほどの成長は十分達成可能だろう。各種指標も安定を示しつつあり、大きな懸念はない。資産価格はかなり割安に据え置かれている。

タイ、インドネシア:2015年にASEAN(東南アジア諸国連合)経済統合を控える両国。人口6億、経済規模2兆米㌦強の経済圏内で関税、投資、人の流れの自由化を進めている。ますます注目度が高まりそうだ。

ブラジル、トルコ、南アフリカ:経済実態自体がさえているわけではないが、不安心理によって資産価格が不合理に下がっている。見直し機会の到来が近いと思われる。

フロンティア諸国(※):アラブ首長国連邦、カタール首長国、ナイジェリア連邦共和国、フィリピン共和国など150カ国超のフロンティア諸国の株式にも注目している。当社は昨年12月12日、フロンティア諸国の株式などに投資する公募投信「HSBCニューフロンティア株式オープン」を設定した。フロンティア諸国には3000社超の企業が存在するが、投資対象としては歴史も浅く、主要金融機関のアナリストによるカバレッジも限定的であった。HSBCグループでは2008年2月にフロンティア株式の運用を開始しており、既に5年超の運用実績を有する。

※フロンティア諸国とは一般に「世界196カ国から先進国24カ国と新興23カ国・地域を除いたすべて」を指す。HSBCが算出する「MSCIフロンティア・エマージング・マーケット・キャップト・インデックス」の構成国はコロンビア、ペルー、アルゼンチン、フィリピン、ベトナム、バングラデシュ、スリランカ、モーリシャス、パキスタン、オマーン、アラブ首長国連邦、カタール、バーレーン、クウェート、レバノン、ヨルダン、エジプト、カザフスタン、ウクライナ、ルーマニア、セルビア、ブルガリア、クロアチア、スロベニア、エストニア、リトアニア、チュニジア、モロッコ、ナイジェリア、ケニアの30カ国が含まれている。

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この先もリスク・オンのムードに水を差す出来事はいくつか生じるだろう。米国の債務問題はいまだ完全合意には至っておらず、欧州の資産査定の結果如何では再び世界経済に暗雲が立ち込めるといった可能性もある。日本の消費増税後の経済成長率なども気掛かりだ。ただし、新興国の成長率はこれまで数年間、高水準を保っており、今後もレンジ的には不変。リスク・オンにブレーキがかかった瞬間はむしろ買いとのスタンスで臨みたい。

「新興国投資」はNISA向き

BRICsは2007年にブームを迎えたが、2013年は軟調だった。5年周期で上下動を繰り返しており、ひとまず最大5年の投資期間を想定するNISA(少額投資非課税制度)とは相性が良さそう。2013年には見放されていたBRICsの資産価格は現在、相当に魅力的な水準にあり、中長期投資のスタートには最適だ。

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